第401話 泣き出した男 3
(前回からの続き)
もう1つの手技は別の麻酔科の先生に教えてもらったものだ。
たとえ気管挿管が無理でもバッグバルブマスク換気ができれば良い。
この手技は難しいことは全くない、形だけなら素人でもできる。
ただし、マスクフィッティングをキチンとすることが大切だ。
さもなくば、バッグで押し込んだ空気が肺にいかない。
そればかりか、マスクの脇から漏れてしまう。
このマスクフィッティングが案外難しい。
そこで裏ワザだ。
経鼻エアウェイを入れておいてバッグバルブマスクで換気する。
こうするとはるかに換気がしやすくなるらしい。
が、さらに上には上がいる。
経鼻エアウェイの代わりに気管チューブを用いるのだ。
鼻孔から気管チューブを入れて、先端を口腔内にとどめておく。
そして、気管チューブにバッグバルブを接続して右手で換気するのだ。
その際、エアリークを防ぐために左手で口を塞ぐ。
大学病院からウチに異動で来た麻酔科医は皆、この裏ワザを知っていた。
そして困難気道から脱出する時間を稼ぐ。
その間に外科医を呼び、落ち着いて輪状甲状靭帯切開をしてもらう。
大学病院といえば、こんな事があった。
手術室で困難気道が発生した時に
たとえ換気ができなくても血液の酸素化ができればそれでいい。
だからその場で回路を組んで酸素化を図り、患者を救命した。
このケースは医療事故の検証対象になった。
その際、弁護士から厳しい質問が飛んだ。
「困難気道発生の可能性を術前に説明していたのか?」と。
が、よほどリスクが高くなければそんな事は説明するはずもない。
誰にでも起こり得ることだからだ。
案の定、他大学からの出席者の発言は全く違っていた。
「その場で
オレも救命センター時代、何度か
でも回路を組むのにスムーズにいって20分はかかったように思う。
この大学病院では僅か数分で患者に装着したのだ。
まさに離れ業としかいいようがない。
困難気道については、まだまだ語ることが沢山ある。
(次回に続く)
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