第440話 生々しい夢を見る男

妙に生々なまなましい夢だった。


 オレの従弟いとこがどっかの兄ちゃんと果し合いをすることになった

 見物人が大勢集まっている

 従弟は匕首あいくちのような物を持っていた

 相手は持っていた袋からテニスラケットを取り出す

 テニスラケットは凶器としては中々優秀だった

 バンッ、バンバンッ

 テニスラケットから木屑きくずが飛び散る

 従弟は頭を殴られ、為す術もなく戦意喪失した


夜中に目が覚めた後でも音が耳に残っている。

何でこんなリアルな夢を見たのだろうか。


多分、3日ほど前にかつぎ込まれた患者のせいだ。


ナイフで知人に襲い掛かったら鈍器どんきで反撃されたのだとか。

主に顔を殴られたのか、皮膚が腫れあがっていた。


こういう時に大切なのは視力と複視ふくしの有無の確認だ。

翌日にはまぶたが腫れて目をふさぎ、視力の確認ができなくなる。

もし物が二重に見える「複視」という症状があったら手術が必要になるかもしれない。

眼窩底骨折がんかていこっせつによる眼球変位の可能性があるからだ。


幸いこのナイフ男には手術の必要はなさそうだった。

一晩は経過観察で入院させるとして、翌朝は警察が引き取りに来る。

鈍器を使った方はすでに逮捕されていた。

正当防衛にしては過剰だと判断されたのだろう。


前の週には頭蓋骨の陥没骨折かんぼつこっせつを起こして搬入された女がいた。

陥没骨折といっても手術が必要なほどではない。

別の女にゴルフクラブで殴られたのだそうだ。

もちろん殴った女はすでに警察が逮捕している。


ちなみにこの程度の頭部外傷でも後遺症が出ることはある。

感情にブレーキが利かず、すぐにカッとなったりする高次脳機能障害だ。


とはいえ、ナイフやゴルフクラブで殴り合う人たちなので、後遺症が出たとしても本来の性格と区別をつけるのが難しい。

逆に、日常的に殴り合ったりして、そのような性格が形成されたのかもしれない。


よく、「子供の時に親に頭を殴られてばかりいると不良になる」と言われるが、あながち都市伝説とも言えないのだと思う。


怒りという感情は人生を失敗させがちだ。

あまり怒りを感じなくなる薬があったらいいのに、と思う。

誰か開発してくれないだろうか。


とはいえ、こういう人たちが素直にのんでくれるとは思えないのだけど。


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