第665話 プランBを提案する男 3

(前回からの続き)


 さて、彼の唱えるプランBについてのオレの意見を述べたい。


 まず、彼が目指すべきだとする日本の未来。

「職業や居住地の選択肢の数が、他の先進諸国並みにある」社会だとしているが、オレは原則的には賛成で一部異論がある。


 彼の意見に賛成だという部分。

 それは職業・居住地の選択肢の数で評価しているところだ。

 というのも、つい我々はGDPの大小を重視しがちだが、それはちょっと違うんじゃないか、とオレは思っている。


 なぜなら、GDPってのは国全体の経済的指標だからだ。

 個人の所得ならともかく、国全体の経済規模は人口に依存する部分が大きく、個々の幸福度に直結しないんじゃないかな。


 だからGDPよりも「職業や居住地の選択の数」を目安にするのには賛成だ。


 が、職業や居住地選択の自由はボトムラインに過ぎない。

 その上に何か重ねたいとオレは思う。


 何を重ねるかといえば、幸福感かな。


 というのも、現代日本が非常に恵まれている社会だとオレが思うのにも関わらず、ネットには怨嗟えんさの声があふれているからだ。

 何が不満なのかオレには理解し難いが、社会に対する国民のうらつらみが少なからずあるというのは間違いないだろう。

 この恨み辛みを幸福感に変換する事ができれば、それは目指すべき日本の未来だと言える。


 国民が幸福か否か、客観的な指標で判断してみよう。


 2021年の世界の殺人発生率 国際比較統計によれば、日本は調査対象155ヶ国の中で8番目に殺人の少ない国らしい。

 もっとも1番から5番までは、バチカン市国、ツバル、モントセラト、マン島、米領サモアだから、国と称するには微妙な存在だ。

 ある程度以上の規模の国ということなら、6番がバーレーン、7番がシンガポール、そして8番が日本になる。


 日本の殺人率は人口10万人あたり0.23人。

 ちなみに米国は6.81人で日本の約30倍!

 最も危険な国はジャマイカで52.13人、実に日本の227倍にもなる。


 一方、日本と米国を除くG7で最も殺人率の低いイタリアは0.51人なので日本の2倍くらい、最も高いカナダは2.07人で日本の9倍だ。

 何となく幸福度の高いイメージのあるスカンジナビア半島の3国はノルウェーの0.54人からフィンランドの1.65人と、日本の約2倍から7倍になっている。


 日本の殺人の少なさ、治安の良さは世界に誇っていい。

 客観的に見れば幸せな国だと思う。



 では主観的に見れば幸せなのだろうか?


 WHOによる世界183ヶ国の自殺率の比較がある。

 2015年のデータなのでやや古いが大体の傾向はつかめるはず。


 日本の自殺率は人口10万人中19.7人で、183ヶ国中の18位だ。

 なんと他人に殺される86倍の確率で自分に殺されている。

 おいニッポン、しっかりしろ!


 日本以外のG7は26位のフランス(16.9人)から101位のイタリア(7.9人)までなので、日本の1.2~2.5分の1。

 スカンジナビア3国はフィンランドの16.3人からノルウェーの10.9人までなので、G7と大体同じくらいだ。

 そもそも日照時間の少ない地域では鬱になりやすいので、そういった要素は交絡因子こうらくいんしとして差っ引く必要があるのかもしれない。


 驚いた事に他殺率世界1位のジャマイカは自殺率が1.4人、世界183ヶ国中179位で、日本の14分の1だ。

 客観的に不幸であっても主観的には幸福な国なのかもしれない。


 では、日本の幸福感を上げるためには、具体的にどうするべきなのだろうか。


(次回に続く)

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