第664話 プランBを提案する男 2

(前回からの続き)


 日本の未来を明るくするために彼が提案するプランBは、以下のようなものだ。


・中央集権型から地方分権型の制度にする。

・地方から東京への富の流出を減らす。

・社会資本産業(医療・介護・教育・政府機関)における安定した雇用創出と実質賃金の向上を図る。

・日本・韓国・台湾で北東アジア経済共同体を設立する。


 以下、具体的に説明しよう。


 現在の日本では富も人も東京に集中してしまっている。

 だからもっと地方を活性化しなくてはならない、という主張だ。


 たとえばお金の問題だ。


 日本の消費税制度では10%のうち7.8%を地方から中央政府に召し上げられてしまっている。

 そして中央政府に対して批判的な特定の自治体に対し、中央からの地方交付税交付金の額を恣意的しいてきに減らす「兵糧攻ひょうろうぜめカード」を中央政府は持っている。

 だから住民サービスの向上による魅力的な移住先を実現しようとしても、地方自治体の裁量は小さい。


 また、厚生労働省は2019年に公立病院+公的病院の25%超にあたる全国424の病院名を公表して再編統合をうながしている。

 これらの病院が選ばれた根拠は主として赤字の額が大きいからというものである。

 しかし、ある自治体に立地する病院の職員は、その自治体の個人住民税収入の約3分の1も貢献しているというデータがあり、病院の縮小・閉鎖によって雇用・人口・税収が激減するという懸念がある。

 彼は病院・介護・教育・政府機関を社会資本産業と呼び、営利企業と同様には扱うべきでない、としている。


 地方から都会への人口流出は自然の流れという部分もあるが、中央政府による「兵糧攻めカード」や社会資本産業の縮小がその傾向を後押ししているのではないか、とも考えられる。


 日本・韓国・台湾で北東アジア経済共同体を設立するというのは、上記に比べるとやや異色な印象を受ける。

 これはコロナ・パンデミックに対する反省から来ている。

 というのも、コロナ・パンデミックに有効なワクチンを開発・大量生産できた経済圏は米国・EU・中国・インドの4大経済圏のみであったからだ。

 日本が単独でワクチンを開発し大量生産する可能性は低いと考えられるので、他国と組むなら韓国・台湾だ、ということになる。


 以上が彼の主張の大雑把おおざっぱなまとめだ。


 オレが少し補足するなら、資本主義社会の宿命といったものがある。

 つまり資本主義体制が続くと、どうしても富める者にさらに富が集中する。

 だから金持ちから貧乏人に富を移転して皆がハッピーな社会を実現するのが民主主義国家の重要な役割だ。


 金持ちと貧乏人という同じ構図は都会と地方についてもあてはまる。

 都会に富が集中してしまえば、地方に雇用がなくなり人々が流出する。

 だから都会から地方に富を移転するのが中央政府の重要な役割だといえる。


 また、社会資本産業の代表的な存在である地方の公立・公的病院はどう扱うべきか。

 地方にある公立・公的病院の赤字はある程度までは仕方ない、とオレは思う。

 というのも、現在の保険医療制度の下では、美味おいしい部分はすべて民間医療機関が持っていってしまう。

 公立・公的病院は不採算医療を押し付けられる存在だ。

 具体的には結核とか重症心身障害児とか救急とか。

 これらの部門は診療報酬制度の改正によっていきなり不採算になることがある。

 不採算になったからといってめてしまうわけにはいかない。


 さらには外国人。


 日本に来る観光客はそれなりにお金を持っているし保険にも入っている。

 が、不法滞在外国人や犯罪者は最初から医療費を支払うという考えがない。

 病院側にしてみれば基本的に踏み倒されてしまうので、まれに支払う人がいたら「奇跡だ!」と思う。

 だから民間医療機関は外国人患者の受け入れにいい顔をしない。

 一方、公立・公的病院は、立場上、彼らの受け入れを拒否することは困難だ。


 愚痴が続いてしまった。


 厚生労働省が再編統合すべしとした424の病院だけど、それぞれに色々な事情があるんじゃないか、とオレは思う。


 一応、彼の主張についてオレも賛成する部分と反対する部分がある。

 だから、次はそれを述べたい。


(次回に続く)

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