第663話 プランBを提案する男 1

 久しぶりに彼の名前を見た。

 ネットサーフィンならぬアマゾンサーフィンをしていた時に。


 とある有名評論家の著書の1章を彼はになっていた。

 人口が減り経済的にも国力が落ちていく日本。

 どうすれば日本の未来を明るいものにできるのか。


 有名評論家の呼びかけで各界の人間が寄稿した。

 その1つが彼によるものだ。


 彼は医学部を卒業した後に、公衆衛生、医療政策、医療経済を学びながら研究を続け、今はしかるべきポジションにある。

 大学院生だったときの彼をよく知っているだけに感慨無量だ。


 それはそうとして、彼の主張を紹介しよう。


 彼が目指すべきだとする日本の未来。

 それは「職業や居住地の選択肢の数が、他の先進諸国並みにある」社会だとしている。

 つまり不幸な社会では職業や居住地が固定されてしまう。

 農家に生まれたら農村から出ることができず、親の後を継いで農業をしなくてはならない、という国も現実に存在している。

 そう考えると日本は職業も居住地も自由に選べるので幸福だと思う。


 ちなみに医師という職業についていえば、学校の成績さえよければ誰でもなれる。

 日本全国に約80ある医学部のうち半数は私学で、これは卒業するまでに何千万円もかかるのでサラリーマン家庭には手が届かない。

 最初から対象外だ。


 しかし残り半分は国公立で、授業料は年間約50万円。

 オレの医学生時代は半分以下の授業料だった。

 6年間で支払った授業料を合計しても100万円にも満たない。

 高校も公立だったからタダみたいな授業料だった。


 勉強さえ頑張ったら誰でも医者になれるんだから、どう考えても現代日本こそチャンスの国だと思う。


 他の職業についても選び放題だ。

 プロ野球選手でもパイロットでも芸能人でも政治家でも。

 これらの仕事を目指したとて誰かに理不尽に妨害されるわけでもない。

 本人の才能と努力が足りなくてあきらめざるを得ないという事はあるかもしれないけど。


 話を彼の主張に戻す。


 明るい日本の未来を築くには、これまでの方針ではダメだ、というのが彼の言いたいことのようだ。

 本の中では、これまでの日本の方針がプランA、彼の提案がプランBとして対比されている。


 プランAは上位1%にリソースを集中し「勝ち」を増やす中央集権型政府を目指す。

 一方、プランBでは下位99%にリソースを割いて「負け」を減らす地方分権型政府を理想とする。


 これらは資源配分の問題だが、彼は価値観についても言及している。

 つまり、日本では基本的人権を重視するという原理原則が欧米に比べて浸透していないとのことだ。

 そう思うのは彼が米国に25年間住んでいた経験によるものだろう。


 そもそも基本的人権とは何か?

「自分が受けたくない行為を他人に行ってはならない」と彼は定義している。

 そして、米国は、その経済的地位が低下しても基本的人権を大切にし「理想主義を常に明確に掲げる社会」だ、と主張する。

 だから世界中からあらゆるタイプのマイノリティをきつけている。

 そして、基本的人権を尊重する価値観のもとでは、強い側が弱い側により多く譲歩する、とも。


 彼が基本的人権を尊重する価値観に対比しているのは権威主義的価値観だ。

 そのような価値観のもとでは強い側が弱い側に一方的かつ大幅な譲歩を押し付けることになる。

 残念ながら日本には権威主義的な人々が少なからずいる、と彼は述べている。


 じゃあ具体的にどうすればいいのか?

 次回は日本の明るい未来を実現するための彼の提案を紹介したい。


(次回に続く)

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