第52話 患者相手に格闘技をする男

あまり知られていないが医療現場にも格闘技がある。

包括的暴力防止プログラムという間抜けな名前で呼ばれている。

別名がCVPPPシーブイトリプルピーだ。

とある精神病院に総本山がある。


というのも精神病院では何かと暴力沙汰が起きやすい。

だから職員も対応法を習得しておく必要がある。


最初は言葉による介入だ。

それが効果的でない場合、身体介入となる。

そこで格闘技が登場する。


しかし、普通の格闘技と違うことが2点ある。


1つ目は患者に怪我をさせてはならない、ということだ。

医療従事者が患者を怪我させるなど言語同断ごんごどうだん

なにより怪我をさせたら仕事が増えてしまう。

結局、自分たちで治療することになるからだ。


2つ目は原疾患の治療を続けなくてはならない、ということ。

たとえば患者が幻覚にりつかれて暴れていたとする。

この患者を殴ったり蹴ったりしたら人間関係も壊れてしまう。

そうなるとこれまで積み上げてきた治療が水の泡だ。

だから殴る蹴るも御法度だ。


そこで登場するのが合気道。

CVPPPは合気道ベースの格闘技といってもいい。


相手に腕や胸倉をつかまれたらうまく脱出して逃げる。

関節技をかけてギブアップさせても何にもならない。

とにかく逃げる。


もしくは固める。

こちらが複数なら迷わず複数人でかかる。

相手が心身ともに大丈夫なのを確認しながら、少しずつ解いていく。

といった形になる。


実はオレも講習会に参加したことがある。


インストラクターが最初にこう述べた。


「患者さんがボクシングや空手経験者の場合には歯が立ちませんので、そこのところは勘違いしないように。玄人くろうと相手に皆さんがすることは、御自身の怪我を最小限で済ませることです。頑張ってください」


これこそ実戦に臨む心構えだ!


というか、正直すぎませんかね、この人。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る