第51話 体に悪い仕事をする男
頭痛で来た46歳の男性。
徹夜仕事以来、2日間は十分な睡眠をとったがまだ頭が重いとのこと。
それが心配になって来院した。
悪い病気があるんじゃないか?
それだけでなく、顔の中心がもやもやするそうだ。
仕事は
「22時に会社に呼び出されて朝の6時まで作業していたんですよ」
22時という表現が悲しい。
夜中も仕事する業界は自然に24時間表示のミリタリー・タイムを使ってしまう。
オレたちもそうなんだけど。
とりあえず頭部CTを撮影した。
慢性硬膜下血種なし。
副鼻腔炎なし。
とりあえず頭が痛くなるような
オレは説明した。
「20代だったら徹夜しても2日間ゆっくり眠ったら元に戻ったかもしれません。でも、40代になったら4日間ゆっくり眠らないと元に戻りませんよ」
患者はいたく納得していた。
ちょうどいい機会なので体に悪いものの説明をする。
「血圧が高めですねえ。飲酒ももう少し控えた方がいいですよ」
もう少し嚙み砕いた話の方がいいかもしれない。
「血圧が高くても何も症状がないのが怖いんですよ。そして、脳卒中や心筋梗塞が突然おこったりするわけです」
もちろん全員がそうなるわけでもない。
「中には血圧が高くても元気で長生きする人もいますけどね」
反論には先回りして答えておこう。
「高血圧の人を100人と普通の血圧の人を100人で比べて平均をとったら、確実に前者の方が早死にします」
なるほど、と納得してもらった。
「しかし、最も体に悪いのはSEという仕事かもしれませんね。辞めるわけにもいかないですけど」
そう言ったら驚くべき答えが返ってきた。
「もう辞めて田舎に帰ろうと思うんです」
「ええっ、経済的なこととか大丈夫なんですか?」
オレは驚いた。
「幸いお金はあるのでアーリー・リタイアメントをしたいなと前から思っていたんですよ」
そんな事を言う人には初めて会った。
何にしても経済的余裕があれば選択肢が増えるのは確かだ。
「それはいいですね。何と言っても体にいい!」
オレは感心して言った。
「よく、60歳とか65歳で引退してから『さあ健康に注意するぞ』という人がいますけど、あれはちょっと遅いんですよ。私の立場で言わせてもらえば、40代くらいから健康に注意して欲しいですね」
患者は大きく
仕事を辞めたいと思っている人の背中を押してしまったかもしれない。
「何かやりたい事があっても40代なら間に合いますよ。エネルギーも十分に残っているし!」
なんだかオレ、自分の願望を語っているみたいになってしまった。
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