第202話 「ハゲ!」と罵倒された男

ある日のこと。

オレは同僚の泌尿器科医と電車に乗った。

病院から2駅先にある忘年会の会場に向かうためだ。


ところが、電車に乗った途端、小学生くらいの男の子に叫ばれた。


「あっ、ハゲだ!」


実は泌尿器科の先生は完全に頭をっていてスキンヘッドだったのだ。

小学生と一緒にいる母親らしい女性はヘラヘラ笑っているのみ。


「すいませんねえ」


全くしつけがなってない親子だ。

オレはそっとスキンヘッド先生の表情をうかがう。

さぞかし憤怒ふんぬの顔になっているのかと思ったら、全然動じる様子はない。


それどころかニコニコしながら小学生に声をかけた。


「ぼく、野菜食べとるか?」

「えっ」


思わぬ質問に小学生はキョトンとする。


「野菜食べへんかったらなあ、おっちゃんみたいにハゲるぞ」


一体、何を言い出すやら。

電車内ではあちこちで乗客が笑いをこらえている。


「ニンジン食べてるか?」

「あんまり食べてない」

「ピーマンは?」

「全然食べてない。ピーマンは嫌い」


小学生は完全にスキンヘッド先生にペースを握られてしまった。


「アカンやないか。おっちゃんみたいにハゲたくなかったら、好き嫌い言わんと野菜食べろよ」

「うん」


含み笑いしたスキンヘッド先生がこちらを向く。

だからオレも調子を合わせてやった。


「頭の中身も大切だぞ、坊主ぼうず。ピーマンみたいな空っぽにならないよう、ちゃんと勉強しろよ」

「う、うん」


野菜食べろだの勉強しろだの、まさか電車の中で説教されるとは!

令和の小学生も色々と大変だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る