第409話 大変な目に遭った男

オレは色々な名医のリストを持っている。

自分より良く出来て、患者を治してくれる医師だ。


しかし、コロナ後遺症については良いリストがない。

コロナワクチン後遺症についても同様だ。



コロナってのは人によって症状が全く違う

何の症状も出ない人もいる。

一方、人工呼吸器装着まで行ってしまった知人もいる。


後遺症の種類も程度も様々だ。

何とも無い人もいれば、いつまでも後遺症に苦しんでいる人もいる。


そういう人はあちこちの医療機関を彷徨うことが多い。

最終的に当院に辿り着いたのが目の前に座っている40代の女性。



オレにしたってコロナの名医でも何でもない。


が、先日総合診療科を去っていった先生に託された。

だから仕方なしに引き受けている。


去った先生には「コロナ後遺症専門クリニックに紹介することもある」と説明されたそうだ。

本当にそういう奇特な医療機関があるのかな?


「具体的なクリニックの名前は出ていましたか?」

「いや、そこまでは……」


で、ネットで調べたら当院の名前が出て来た。


なんじゃこりゃ!


ウチがわざわざ宣伝しているはずはない。

でも、行政の一覧表に出ている。

その程度のリストだということが良く分かった。



で、患者の訴えはこうだ。

 考えがまとまらない。

 やたら疲れる。

 腰が痛い。

 頭が痛い。

 下痢がある。


このうちのいくつかはコロナ罹患以前からあった。

そしてコロナにかかってから悪化した。


なんかコロナってのは、その人の弱点を暴き出すような気がする。



でも、最近少しマシになってきたそうだ。

というのも単身赴任していた御主人が帰ってきた。

家事も子供たちの世話も分担してくれる。

それで精神的に楽になって後遺症の辛さが減ったのかもしれない。


オレは日頃考えていることを患者に説明した。


「コロナ後遺症ってのは、何か特効薬があるってわけじゃないんですよね」

「やっぱり」

「でも半年とか1年かかってゆっくり良くなっていくんですよ」


あくまでもオレの経験の範囲だけど。


「色々な症状に対して薬で対処しながら自然に良くなっていくのを待つってのが現実的な方法だと私は思います」


彼女は黙って頷いた。


「なので、1~2ヶ月ごとに外来に来ていただき、『この薬は合っている、この薬はダメだ』というのを教えてもらって、一緒に薬を調整していくのはどうでしょうか?」


彼女は得心したようだ。



が、ここからが問題だった。


去っていった医師が処方しているのが漢方だった。

しかも院内採用されていないので、電子カルテで処方箋を打ち出すことができない。

それで手書きで処方していた。


それ、掟破りじゃん!

そもそも手書きまでして出す薬かね、漢方ってのは。

一応、前回は院外薬局が受けてくれていた。


そもそもオレ自身は漢方を滅多に使わない。

自分の知らない薬を処方しないってのは当然だ。

でも、前任者が出していて患者が欲している場合、出さざるを得ない。


親切で引き受けたら大変な目に遭った。

簡単に言えば、そういう事だ。


そういや「靴のヒモを結んでやったら、次は靴を磨かされることになる」という諺がある。

マフィアか何かの言い伝えじゃなかったかな。


確かに人生の真実だと思う。


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