第347話 お肌がすべすべになる女

「昼間に眠くて眠くて」


そう高齢女性の外来患者に訴えられた。


「何時頃に床にくんですか?」

「いや、ソファに寝っころがってテレビを見ていたら、そのまま寝落ちするのよ」

「えっ、そりゃあ最悪だ」

「夜中の1時か2時に目が覚めてトイレに行くんだけど、部屋の電気がつきっぱなしで」

「駄目じゃないですか、ちゃんと寝ないと」

「トイレの後に寝ても、また3時か4時に目が覚めちゃって」


ツッコミどころが多すぎる!


「僕なんか、夜に床に就いたら朝までスパーンと寝て、サッと起きて、昼間はスッキリですよ」

「そんな風に寝れたらいいのだけど」

「もうね、まるで高校生です」

うらやましいなあ」

「だからキチンと眠ってお肌すべすべの女子高生に戻りましょう!」


とはいえ、この人の女子高生時代ってのは50年前か60年前か。


「まずは寝る前にちゃんと風呂に入りましょう」

「シャワーだったら駄目?」

「駄目です。湯舟につかって汗を流すのがいいんです」


風呂に入ると少なからず汗をかく。

過剰な水分が排泄されるから、夜中にトイレに行かなくて済む。


「それと、寝落ちはいけません。テレビは捨てましょう」

「ダメえ、テレビは捨てないで!」

「分かりました。テレビは捨てなくていいから見ないこと。キチンと部屋の電気を消して布団に入って寝ましょう」

「ついスマホを見てしまうんだけど」

「それはいいですよ。スマホの画面を見ていたら手からポトッと落ちて眠れますから」


実際、スマホを見ながら寝落ちというのはオレも毎晩やっている。


断崖絶壁にぶら下がって寝ている写真なんかをスマホで見ていたら、なぜか睡魔にあらがえなくなる。

登山の途中だそうだが、よくこんな恐ろしい状況で眠れるもんだ。


それはさておき。


「とにかくですね、スパーンと寝てサッと起き、昼間はスッキリ。お肌すべすべの女子高生に戻って、もう一花咲ひとはなさかせましょうか」

「それ、ちょっと無理なことないかな?」

「人間、何事なにごとも夢と希望を持つことが大切です。次の受診の時には『生まれ変わった!』という言葉を期待していますからね」


という事で、正体不明の希望を無理矢理に持たされて、彼女は帰っていった。

疾病しっぺい予防よりも現世利益げんぜりやくの方がよほど患者には喜ばれるような気がする。


果たして次回はお肌すべすべになっているのか、この人?

そこに注目だ。


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