第968話 胸がドキドキする男 6

(前回からの続き)


 事が起こったのは脳外科の外来をしている最中だった。

 なんだか喉が詰まる気がしてきたのだ。

 それで、しばらく休憩スペースで休んでいた。

 症状からすると狭心症または急性心筋梗塞のような気がした。


 そこにやってきたのが他科の外来ナース。

「先生、元気?」そう聞かれた。

 オレは「いやダメだな」と力無く返事する。

「実は喉が詰まるような気がして……これはひょっとして心臓だろうか」とオレは言った。


 途端に彼女の顔色が変わる。


「そんな事を言ってる場合じゃないでしょ。すぐ心電図計を借りてくるから、そこのストレッチに寝て!」


 そう言われたオレは素直にストレッチャーの上に寝た。


 すぐに12誘導心電図が取られる。

 通りがかりの脳外科の連中には「先生どうしたんですか」とのんびり尋ねられた。


 もう1人いたナースがすぐに循環器内科に電話する。

「丸居先生が不調で心臓みたいです。すぐに対応をお願いします」という声が聞こえてきた。


 心電図をとった後、2人のナースが額を突き合わせて12誘導心電図を覗き込む。

「正常そうに見えるなあ。でも循環器内科に話をつけているから、このまま行ってください」とオレは脳外科外来から押し出された。


 そして循環器内科外来。

 担当医は「ん-、心電図を見るかぎり問題ないんだけど。念のためCT冠動脈造影3D-CTAをやっておきましょう」と言う。

 そしてその足でCT室に行き、造影剤を点滴しながらCTを撮影してもらった。


 午後は特に喉の詰まりもなく普通に過ごして会議にも出る。


 喉の詰まりがあった事も忘れかけていたその時、循環器内科医からオレの院内PHSに電話があった。


「先生、冠動脈のほうは大丈夫なんですけど。実は肺に影があるみたいです」


 そう言われてあわてて自分で自分の放射線科所見を確認する。


肺腺癌はいせんがん胸膜播種きょうまくはしゅうたがい」とそこにははっきりと書いてあった。


 いわゆる癌性胸膜炎がんせいきょうまくえんってやつだ。

 余命よめい3ヶ月か、オレは!


 もう目の前が真っ暗になり、全身がガタガタと震え出した。


(次回に続く)

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