第967話 胸がドキドキする男 5
(前回からの続き)
その日の朝、車で出勤する途中に右の腰が痛くなってきたのだ。
時々起こるギックリ腰とは違ったタイプの腰痛だ。
ギックリ腰の場合、身体を
でも、今回は右の腰に
「昨日、ひさしぶりに
顕微鏡手術は数時間に及ぶ事も珍しくない。
前の日も4~5時間くらいかかっていた。
長時間同じ姿勢で座っていると腰の1つも痛くなろうってもんだ。
そう無理矢理思い込もうとしていたが、心の中で次第に別の声が大きくなってくる。
「お前の腰痛は尿路結石だ!」と。
出勤してそのまま救急室に駆け込む。
驚いて立ち上がった看護師にオレは「おしっこを取るからテステープで見てくれ!」と叫んだ。
しばらくしたら「先生。出た、出た!」とテステープを見せられた。
なんと潜血反応が陽性に出ていたのだ。
この時はロキソニンをのんでしばらく大人しくしていたら次第に痛みが治まった。
「あの胆石の痛みに比べれば、尿路結石の痛みなんてのは知れているぜ」
そう思っていたら甘かった。
平均して2ヶ月に1回くらいの痛みが来るようになったのだ。
右に出たり左に出たり。
手術している最中に痛みが来て、そのまま車椅子で運び出されたこともあった。
また、演者を頼まれていた講演会の直前に痛みが来てやむなく中止したこともあった、すまぬ。
1つ1つの痛みは胆石ほどでないにしても、度々重なると次第に心が折れてきた。
ちょっとした腰痛でも「ひょっとしてまた来たのか?」と疑心暗鬼になってしまう。
が、ある時から痛みの回数が減った。
せいぜい1年に1回あるかないか。
何か変わったことと言えば、野菜ジュースを飲まなくなったくらいだろうか。
野菜ジュース自体は尿路結石を予防するという説と悪化させるという説がある。
たぶん人によるのだろう。
そしてオレの場合は野菜ジュースで尿路結石が出来る体質だったのではないかと思う。
さすがに尿路結石で入院するまでには至らなかったが、時々は救急室の片隅で痛みに耐えるという生活は何とも気の滅入るものだった。
同僚の内科医によれば尿路結石というのは外科医の職業病なのだそうだ。
飲まず食わずで長時間の手術をしていれば脱水で石が
そんな事もあって、ますます手術室に行く機会がなくなった。
1人に1つずつ与えられていた更衣室のロッカーも召し上げられ、必要な時は共同のものを使うように言われた。
別に腹は立たない。
単に自分の
しかし、それでも今にして思えば牧歌的な日々だったといえる。
というのも、ついに
(次回に続く)
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