第469話 性格の変わった女

 脳腫瘍は人の性格を変えることがある。


 1966年8月1日に米国で起こったテキサスタワー乱射事件の犯人は、警察に射殺された後の司法解剖で視床下部に脳腫瘍がみつかった。



 以前、オレも自分が手術した患者の性格が術後に変わった経験がある。


 この女性には後頭葉に接して巨大な髄膜腫があった。

 ところが摘出後に普通の中年女性になったのだ。

 後で考えれば、手術の前はかなり嫌な性格だった。



 逆もある、と言い出したのは他院の脳外科医。


 手術の前はほんわかとした優しい中年女性だったそうだ。

 ところが手術で巨大脳腫瘍をとったら性格が変わった。


「元のきつい女房に戻ってしまいました。手術してもらって良かったのか悪かったのか」


 そう言いながら亭主は肩を落としていたそうだ。



 一方、オレの同僚は偶然に小さな肺癌がみつかった。

 癌が見つかる前は断捨離に邁進していて、片っ端から物を捨てる毎日。

 が、手術で肺癌を取ってしまうと、彼の部屋は元通りに汚くなった。


 ただ、本人にも言い分がある。

 片付けに精を出すと再び悪い病気になるんじゃないかと心配だ。

 だから、わざと汚くしているんだ、とか。


 ほんまかいな?



 脳腫瘍で性格が変わるってのはあるかもしれない。

 が、肺癌ではどうなんだろう。

 しかも10円玉サイズだ。


 まだまだ人体には謎が多い。


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