第490話 悪夢を見た男

こんな悪夢を見た。


 ふと気づいたら国際学会の席にいる。

 ついうっかり居眠りしていたらしい。

 気づいたら財布も携帯もなくなっていた。

 慌てて大探しする。

 でも薄々気づいていた。

 きっと盗られたに違いない、と。

 クレジットカードを止めなくてはならない。

 しかし、電話しようにも携帯がなかったらお手上げだ。


絶望の中で目が覚めた。

窓の外は明るい。


それにしても、なんでこんな悪夢を見たのか?

多分、前日の経験があったからだ。


昨日、遠くから会合に来ていた先生を空港まで車でお送りした。

ところが、その先生がオレの車の中にスマホを忘れていったのだ。

スマホケースにはクレジットカードも入っている。

それがなかったら飛行機に乗ることができない。

何より、スマホがなかったら日々の生活が何かと不自由だ。


幸い、その先生はパソコンを持っていた。

関係者にメールを一斉送信し、それに気づいた人間がオレに電話してきたというわけ。

車の中を探してみると、確かにドアと座席の間に落ちていた。

あわてて空港に引き返す。

降車地点で待ち合わせましょうと、逆ルートで連絡した。


飛行機の出発時刻が迫ってくる。

チェックイン締め切り時刻にギリギリ間に合うか否か。

かなりきわどい。


でも、ここでスピード違反なんかやって捕まったら何もかもパーだ。

ましてや事故を起こして人をはねたりしたら目も当てられない。

だから、慎重に急いだ。


空港の待ち合わせ場所につくと、手にパソコンを持ったまま大先生が駆け寄ってきた。

スマホをお渡しすると、即座にUターンして空港の建物まで走っていく。

あの年で走れるなんて、大したもんだ。


チェックインには間一髪かんいっぱつ、間に合ったみたいだ。

後で、お礼のメールが来ていた。


それにしても現代社会におけるスマホの重要性というのは大変なものだ。

個人秘書ともいえるし、自分の分身ともいえる。


オレも何処どこかに忘れたりしないよう注意しないとな。


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