第557話 「王の病室」を読む男 2

(前回からの続き)


 引き続き、オレの目で見たリアルな部分を語りたい。



ここがリアル!:その3 「後医こうい名医めいい」というお言葉


 研修医の赤城が診断に手こずっている患者をグッドパスチャー症候群だと言い当てた上級医の獄門院が「最初からグッドパスチャーって疑っていたんですか?」と詰め寄られた時の台詞がリアルだ。

「なにお前、一発で言い当てたから俺が名医様だとか思っちゃってるのォ!?」と嘲笑あざわらう。

 そして「ちげーよ、こんなの典型的な『後医は名医』ってやつだ」と続ける。


 どんな症例でも時間とともに経過が明らかになりデータも蓄積される。

 だから最初の医師が診断をつけられず後で診た医師がズバリと当てる、などということはしばしば起こる。

 それを端的に表現したのが「後医は名医」という諺だ。

 皆がこのような事情を理解していればいいのだけど、てして前医の悪口を言う医者が後を絶たない。

「どうして前の先生は診断をつけられなかったんですかね?」とか。

 そんな余計なひとことが患者の不信感を招き、無用なトラブルのもとになる。

 このような行為をいましめるための諺が「後医は前医をそしるべからず」だ。

 意味は言わなくても分かる事と思う。



ここがリアル!:その4 現在の診療報酬制度において最も優れた医者とは


 これは「現在の診療報酬制度において」というただきがついているのがミソ。

 獄門院はこう言っている。


 難病・奇病・話が長くなりそうな患者は門前払い。


 手のかからない患者だけを言葉巧みに月1回リピート通院させ指導管理料は毎回きちんと算定。


 しかもその患者もいざ合併症や重症になったらさっさとさじを投げ、他院に回して責任をなすりつける。


 そんな医者が最も正しい。


 

 獄門院先生の考察にはうなずかされる。

 色々な意味で手のかかる患者を抱えてしまうと利益が出ない。

 だから、薄利多売こそが日本の診療報酬制度における正解となる。


 当然のことながら、手のかかる患者は難民化し公的病院に押し付けられる。

 決して怠慢で赤字になっているわけではないのに公的病院は何かと非難されてしまう。

 お気の毒に……って、それ、ウチの病院の事じゃん!



ここがリアル!:その5 日本の医療が最高水準にある理由について


 上級医の獄門院が研修医の赤城に自らの考えを披露する。

 なぜ日本の医療は世界最高水準にあるのか。

 彼は言っていないが、なぜその水準を異常な低価格で実現できているのか、というのも同じ設問の裏表だ。

 獄門院は自説をこう披露する。


 腕を磨いても金銭的に評価されない、とはいえ目の前に患者がいれば治したいというのが人情……


 ほぼ定額とはいえ世間一般から見れば高給なのでちゃんとしようという責任感。


 そもそも医者という集団は子供の頃からお受験をこなした比較的真面目な連中であるという話もある。


 あるいは医療ドラマ・漫画などのフィクションとして作られた名医のヒーロー像が外部規範がいぶきはんとして無意識のうちに影響しているなんて可能性もあるかもしれんなァ。


 そうした複合的な要因でなーんとなく質が保ててるってのが本当のところだろう。


 

 この獄門院先生の説はオレが今まで耳にしたものの中で最も説得力のあるものだ。


 よほど優秀な医療監修者がついているんだろうな、この漫画には。

 そしてその監修者は決して医療評論家などではなく「中の人」だと思う。


 第2巻が出るのが楽しみだ。


(「王の病室」を読む男 完)

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