第556話 「王の病室」を読む男 1
「王の病室」第1巻を読んで驚いた。
これまでに読んだ医療系漫画の中でも最もリアルだったからだ。
あらすじは単純だ。
診療所を倒産させてしまった開業医の父親がいた。
父親は「悪いことができなかったんだ」と息子に倒産の理由を告げる。
その反動で息子は儲かる医者を目指す。
月日は経ち、息子は無事に医学部を卒業し、初期研修医として働き始めた。
が、儲かる医者どころか普通の医者になるのも難しい、という現実にぶつかる。
さて、この漫画のどこがリアルか、それをオレが解説しよう。
ここがリアル!:その1 心肺停止患者に必死で気管挿管するところ
主人公の赤城は当直中にいきなり心肺停止患者が搬入され、医師は自分1人という状況で対応する羽目になった。
まだ麻酔科ローテーションもしていない研修医だと気管挿管もなかなかうまく行かない。
何とかうまく入れて、まるで天下を取ったみたいな気になった。
そして自己心拍再開だ!
ところが上級医の高野には「まったくこの忙しい中……余計なことをしてくれる」と叱責される。
なんで救命したのに非難されなくてはならないのか、と赤城は反論した。
すると高野は「適度に殺すのも医者の仕事だ」と言い放つ。
こう書くとまるで高野がとんでもない冷血医者みたいに聞こえる。
が、ある意味で正しい。
別の上級医である獄門院が赤城にアドバイスする。
まるで、お前は何も分かっちゃいないんだ、とばかりに。
獄門院曰く。
「この国において医療とは定価でスキルとサービスを提供する商取引。医者はこの社会に
全くその通り、オレもそう思う。
獄門院は続ける。
「それをだ。お前らみたいな人助けヅラした医者がいるから『全人的医療』なんて言葉を押し付けられることになるんだよ」
さらに獄門院は赤城に告げる。
「なんで病気を診るだけの専門家が、そいつの人生全体の幸福をマネージメントしなきゃいけね-んだ? そんなのコンシュルジュにでも頼んどけよ」
そしてとどめを刺す。
「患者さんの命を救ってご家族の皆さまはドラマみたいに大喜びしていたんですかぁー。大して喜んじゃいなかったんだろ。手放しで喜ぶのは実際に介護をしないヤツだけさ」
仰るとおり!
人助けしても感謝されないという場面にはオレ自身これまでの医者人生で何回も、いや何十回も出くわした。
別に家族が悪いわけじゃない。
単に誰も幸せになれないという現実があるだけだ。
不幸なのは家族だけではない。
「死んでもらった方が良かった」と家族に心の中で思われる患者本人も不幸だと思う。
ここがリアル!:その2 皆が「王様」扱いされていると指摘するところ
赤城に高野が説教する場面がある。
「もしも『目の前の患者はこの国の王様だ』『絶対に助けろ』と言われたところで、結局我々は普段と同じことをするだろう」
この部分は非医療従事者にはピンと来ないと思うが、これもリアルだ。
我が国の国民皆保険制度と生活保護制度のお蔭で、貧乏人でも金持ちでも同じ医療が受けられる。
つまり、国民全員に贅沢な治療が行われてしまうということだ。
そう言うと必ず「病院は儲けるために患者を薬漬け、検査漬けにしている」という見当違いな反論が来る。
が、令和の現在、ほとんどの医療機関がDPC制度を導入している。
これは包括評価制度で、各疾患ごとに入院日数で診療報酬が固定されているものだ。
だから薬を出すほど検査をするほど医療機関は損するシステムになっている。
薬漬けや検査漬けをしていたら医療機関は大赤字だ。
できるだけ薬を出したり検査をしたりしないで済ます方が経営的には正しい。
だからといって何も治療しなくて良いという事にはならない。
さらに言えば、末端で働いている医師にとっては病院の収益が上がろうが下がろうが給料は同じだ。
かくして貧乏人にも王様と同じような贅沢な医療が施されてしまう。
そうした状況を以下のセリフが端的に表現している。
「今、この病院には200人以上の『王様』が入院しているんだよ。そしてその医療費を国民全員で負担しているんだ。常軌を逸したシステムだと思わないか?」
まさしくその通り!
常軌を逸したシステムだとしか言いようがない。
まだまだ「ここがリアル!」と指摘したい部分は沢山ある。
この漫画に出て来る医師たちのセリフは極めてリアル、医師なら誰もが心の中で思っている事だ。
患者という立場でこの漫画を読むのもいいと思う。
普段とは違う角度から物事を見ることができる。
しかし、オレが本当に読んでもらいたいのはメディアや評論家たちだ。
医師に対して見当外れな攻撃をする前に、この漫画を読んでちっとは勉強した方がいいんじゃないかな。
次回はさらに、オレの目から見た「王の病室」の感想を述べたい。
(次回に続く)
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