第359話 婚活に成功した女

ある日の事。


見知らぬメールアドレスから、やけに親し気な調子のメールが来ていた。

なんと、通院しているアラサー女子だ。

結婚して名字みょうじもメールアドレスも変わったので気がつかなかった。


彼女は以前から「恋愛したい、結婚したい」と言っていた。

それで結婚相談所に登録したのだとか。

1年ほど前の事かな。


第313話に登場した婚活女性とは別の患者だ。


結婚相談所といっても現代のそれはマッチングアプリ。

真剣に生涯の伴侶はんりょを探そうってのから、出会いだけが目的のものまで色々ある。

当然、彼女が登録していたのは前者だけど、ロクな男がいない、とこぼしていた。


が、ついに相手にめぐり会ったのだそうだ!


「先生、彼ってハゲ、デブ、チビと3拍子揃っているんですよ」

「それは……なかなか、いいんじゃないかな」


これ、どう相槌あいづちを打ったらいいわけ?


「浮気の心配もなさそう……だね」


どれどれ、とスマホの写真を覗き込む。


おお、確かに3拍子揃っている。

これだったら、良からぬ事を考えても極端に打率が悪そうだ。


「〇〇島の出身で、3兄弟の次男なんです」

「おお、△△県か!」

「知ってます?」

「もちろん」


△△県には妻の親戚が大勢住んでいる。

が、かなり遠い。

車で4時間ほどかな。


「先生が私にしてくれたアドバイス、憶えていますか? ずいぶん昔の事だけど」


何か言ったかな。

オレ、いい加減なアドバイスが得意だから。


「結婚したら自分の実家の近くに住むのがいいって」


確かにオレが言いそうな事だ。

実の母親には色々と助けてもらえるからな。


「それで私、実家のすぐ近くに住んでいるんですよ。彼も職場の近くからこっちに引っ越してくれて」


そりゃあ、遠い△△県からみたら誤差の範囲だ。


「彼が夜勤の時は、私、実家に帰っているんですよ」

「子供ができたら御両親に色々頼ったらいいと思うよ」

「そのつもりで今は妊活しています」


おっと、妊活……ですか。



客観的に見て、彼女は美人だと思う。

よく見ないと分からない程度の障害はあるけど。


「彼、すごく優しいんです。私の障害も受け入れてくれたし」

「そういうおおらかさが1番!」



そうそう、忘れないうちに肝心な事を訊いておかないと。


「ところでそのマッチングアプリ、なんていうやつ?」

「◇◇っていうんですよ。試してみてください」


オレが試してどうする?


実は他にも婚活している通院患者は多い。

ほとんどが女性だけど。

だからどのアプリがいいのか、そういう情報は貴重だ。

こうして実績もあるってことだし。


興味が湧いてきたので、ちょっと婚活サイトを覗いてみた。


まずは専門用語が多すぎる!

イケメン、ハイスペ、業者、サクラ、ヤリモク、身バレなど。

なんじゃ、そりゃ?


とにかく、色々なリスクがあることを承知の上で利用しろってことか。


男の通院患者に勧めてもいいかもしれないな。

いやいやオレが勧めるのはちょっと問題がある。

「◇◇というアプリを使って結婚した人がいますよ」くらいに事実だけを述べるのが無難か。


とにかく、こういった前向きな話を聞かせてもらうと、オレも頑張って治療した甲斐があったというものだ。








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