第884話 トラブルを招いた男 1
損保会社から相談された事案。
ある脳神経外科クリニックでの事。
ちなみに脳神経外科の看板をあげていても手術をしているクリニックは数少ない。
多くの場合、開業する前の院長先生の専門が脳神経外科だったということを意味する。
だから神経内科疾患はもとより内科疾患もみる。
神経内科疾患といっても筋萎縮性側索硬化症のような難病ではなく、頭痛、めまい、物忘れあたり。
内科疾患の方も高血圧や高脂血症、糖尿病といった生活習慣病がメインだ。
こういったクリニックはMRIを持っていることもあり、頭痛やめまいを訴えて来院した患者に対し、とりあえずMRIを撮影する。
MRIで原因の分かる頭痛やめまいはごく僅か。
多くの場合「命にかかわる病気はなさそうですね」くらいしか言えない。
それでもいかにも有難い医療機器なので「あそこのクリニックにいったらMRIを撮影してくれる」という事で患者が殺到する。
もちろんクリニックに経営手腕があればの話だけど。
ただ、頭痛やめまいの原因精査で撮影したMRIで全く別の疾患がみつかる事がある。
その代表的なものが未破裂脳動脈瘤だ。
未破裂脳動脈瘤は文字通り、未だに破裂していない脳動脈瘤だ。
将来破裂するかもしれないし、破裂しないかもしれない。
もし破裂したらクモ膜下出血となり、命にかかわってしまう。
クモ膜下出血を放置すれば死亡率80%。
仮に最善の治療をしたとしても3分の1は死亡し、3分の1は車椅子・寝たきりとなり、社会復帰できるのは3分の1だけだ。
だから未破裂脳動脈瘤を発見した時点で手術して破裂を予防するというのが1つの解決策となる。
しかし、これも問題がある。
というのも脳に対する手術はノーリスクとはいかない。
いわゆる手術合併症で寝たきり、車椅子、死亡などの状態になってしまうことがある。
その確率は大雑把なところで、寝たきり・車椅子が5%、死亡が1%程度とされる。
破裂を予防するための手術で却って悪くなるのだから皮肉なもんだ。
実はオレ自身、手術による死亡はないものの重大合併症はある。
結局、「予防のための手術をしたけど合併症が出ました」という最悪の事態を避けるためには「経過観察しておきましょう」という判断に落ち着く事が多い。
実際のところ、サイズが5mm以下の脳動脈瘤の年間破裂率は1%程度なので、何事もおこらないまま一生を終える患者も多い。
以上のバックグランドを踏まえた上で損保会社から相談された事案について述べよう。
某脳神経外科クリニックがめまいの患者の頭部MRIを撮影したところ小さな脳動脈瘤がみつかった。
脳動脈瘤は小さいほど破裂しにくい。
よって、脳神経外科医である院長先生は「未破裂脳動脈瘤がありますが、これは小さいものなので経過観察しましょう」という事で半年後に再検査することになった。
知らない間に脳動脈瘤が大きくなったりしないよう定期的な画像検査は欠かせない。
ところが、思わぬトラブルに発展してしまったのだ。
(次回に続く)
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