第110話 決断に失敗した男

爽やかな休日の朝。


妻は買い物に出かけている。

オレは自宅のトイレに腰かけてゆっくりと用を足していた。


家の外にカラカラカラというディーゼル音。

ひょっとしてクロネコの宅配かな、とオレは思った。

しかし、ウチだとは限らないし。


ピンポーン!


いきなりインターホンが鳴った。

よりにもよってウチに来たのか。


一旦スルーするか。

それとも、途中ではあるがパンツを上げて対応するか。


一瞬の迷いの後にオレは後者をとった。

日頃から40秒以内の決断を心掛けている。

それが心停止から瞳孔散大までの時間だからだ。


「はいっ、ここに印鑑をお願いします!」


クロネコの兄ちゃんはいつも元気だ。

届けられたのは妻の友人からの果物だった。

それを玄関に置いておき、オレは個室に戻る。


すべては何事もなく終わったはずだった。


何気なくパンツを点検したオレはあってはならないものを発見した。

ついさっきまで自分の体の一部だったものが、そこに付着していたのだ。


どうするんだべ、これ!


オレは混乱した。

混乱しながらも頭の中では冷静な計算を行う。


まずは腫瘍塊減量マスリダクションだ。

その上で補助療法アジュバントセラピーが必要になる。

漂白剤につけた上で洗濯するか?


いや、もう無理だ、諦めよう。


ということでオレは「腫瘍塊マス」をできるだけ除去した上で厳重に封入する。

燃えるゴミとして出すためだ。


それにしても不覚なり。

軽く拭いてからパンツを上げれば良かった。

……情けない。


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