第433話 サイコパスの女

「あの人、サイコパスじゃないかな」


 そう言ったのは脳外科外来のクラークだ。

 サイコパスと言われたのは某診療科のナース。

 周囲と協調することなく、師長の言うことすら無視するのだそうだ。


 オレ自身はこのナースを良く知っているが、そういう場面はついぞ目撃した事はない。

 同じ人間でも見る人によって、違う姿に見えるのはよくある事だ。



 さて、サイコパスというのは最近よく用いられるようになった言葉だ。

 似たような言葉として、反社会性パーソナリティ障害、情性欠如、ソシオパスなどがある。


 人間の心を持っておらず、平気で噓をついたり人を殺したりする。

 殺人をするのに躊躇ためらいがなく、良心の呵責かしゃくもない。

 なので周囲にいたとしても関わりにならない方が無難だ。


 オレ自身はリアルで「こいつはサイコパスだ」と確信した事はない。

 ひょっとしてそうかも、という人間は何人かいる。


 ニュースに登場する犯罪者としては三菱銀行人質事件の梅川昭美うめかわあきよしが典型的だと思う。


 梅川は15歳の時に強盗殺人で少年院送致となっている。

 その裁判では「少年の病質的人格は既に根深く形成されていて、容易に矯正しえないものである。少年が今後、社会に出れば同様の多種の非行を繰り返し、再び犠牲者が出る可能性があると思料される。だが少年であるがゆえに処罰しえない」とされている。

 要するに、再犯の可能性が高いけれども現在の法律ではこの処分が限界だ、という意味だろう。


 彼は1979年、30歳の時に三菱銀行北畠きたばたけ支店に猟銃を持って強盗に入り、合計4人を射殺した。

 最終的には自らも大阪府警の機動隊に射殺された。

「あの時は8発撃って3発しか当たっていなかったんですよ」と、後にオレは隊員から聞く機会があった。



 さて、サイコパスは100人中2~3人ほどいるといわれている。

 我々も知らず知らずのうちに接している可能性がある。


 自分に危害が及ばないためには、うまくサイコパスを見分けて対処しなくてはならない。


 以下は、オレなりに考えた見分け方だ。


 サイコパスは悲しい映画を観て泣くことがない。

 他人に対する共感性が欠けているからだ。

 もしサイコパスが泣くことがあったとしたら、それは悲しいからではない。

 怒りや悔しさのあまりだと思う。


 サイコパスの瞳孔の形は横長。

 これはあるサイコパス研究の本にあった記述だ。

 その本では「ヤギ目」と呼んでいた。

 確かにヤギの目は貯金箱みたいな長方形になっている。


 サイコパスの感情表現には違和感がある。

 知能の高いサイコパスは、粗暴な行動は一文いちもんの得にもならないことを知っている。

 できるだけ周囲の人に合わせようとしているので、見た目は一般人と同じだ。

 が、サイコパスが悲しんだふりをしても違和感はぬぐえない。


 次に対処法を述べよう。


 ひょっとしてサイコパスかも、と思う人とは距離を置くのが1番だ。

 が、オレは立場上、患者として来たサイコパスは診療せざるを得ない。

 その時には、損得を意識させる。

「この医者とは仲良くしておいた方が得だ。逆に危害を加えたら損する」と思わせなくてはならない。

 とはいえ、あまりにも依存されても困るので心理的距離は保っておくべきだろう。



 一方、カクヨム作家としては、これほど面白い題材はない。

 試しに「サイコパス」というキーワードでカクヨムを検索したら694件もヒットした。

 悪役が魅力的であるほど小説は面白い、というのは本当だ。


 オレが長々とサイコパスについて語ってきたのも、作家的興味だろう。

 いつか恐ろしいサイコパスが登場する物語を書いてみたい、と思う。


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