第609話 血の止まらない男 1
最近の学会はコロナ禍に影響されたオンライン方式から現地参加方式に戻りつつある。
横浜で行われている日本脳神経外科学会第82回学術総会はオンラインと現地参加を併用するハイブリッド方式だ。
3日間、現地に行きっぱなしの人間もいれば、1日だけ現地に行く人間もいる。
1つ言えるのは病院が手薄になってしまうということだ。
脳外科に限らず、どの診療科でも毎年のように同じことが繰り返されている。
オレは現地には行かず、オンラインで学会に参加することにした。
そうすれば病院でパソコンの画面を見ながら、必要に応じて
学会プログラム視聴に集中するために外来予約は入れていない。
実際には何だかんだでゆっくり視聴できない事が多いのだけど。
そんな学会期間中のある日。
朝の割り付けのために救急外来に行ったオレは、電子カルテの画面に急性
誰がどうみても直ちに開頭血腫除去が必要だ。
横で脳外科のレジデントが院内PHSでどこかに電話している。
それが済むのを待って彼女に尋ねた。
「何か手伝おうか?」
「今のところ大丈夫です。8時に手術室に入室なんですけど」
とりあえず手は足りているということらしい。
で、オレは朝の割り付けを済ませて、自分のパソコンで学会プログラムを立ち上げた。
ちなみに学会プログラムは8時30分から19時までビッシリと詰まっている。
オレがパソコンの画面を見ていると院内PHSが鳴った。
脳外科の若手スタッフからだ。
「すみません。手術を代わってもらえないでしょうか。今から横浜に行かないといけないので」
なんだ、なんだ。
やっぱり手が足りないのか。
「いいよ。幸い今日は外来患者はいないし」
ということで急いで手術室に向かった。
スタッフ1人とレジデント2人で手術中だ。
ちょうど最初のバーホールを開けたところだった。
「やけに出血が多い気がするけど」
「バイアスピリンとエリキュースを服用中みたいです」
バイアスピリンは
どちらも血をサラサラにする薬だ。
血をサラサラにするというと聞こえは良いが、困ったこともある。
外傷や手術で血が止まらなくなるのだ。
ちょうど今回のような頭部外傷による急性硬膜下血腫に対して開頭手術を行おうという状況なんかは最悪だ。
ともかくオレは手洗いをして横浜に向かうスタッフと交代した。
(次回に続く)
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