第200話 毎日カルテを書く男
昨日は新しくローテートしてきた研修医が
「目標:患者さんの心をキャッチする」というものだ。
いい心構えだと思う。
実はこの研修医、もう1つの目標を掲げていた。
それは「目標:
SOAPというのは本来「石鹸」を意味する英単語だが、医療では別の意味を持つ。
それはカルテを書くときの形式だ。
Sは subjective data で主観的データ。
つまり患者自身の「頭が痛い」とか「皮膚が
痛さや痒さは他人には分からないので主観的データとなる。
Oは objective data で客観的データ。
体温が37.2度だとか、白血球数が12,500だとかいう動かない数値などがこれにあたる。
Aは assessment で評価。
上記、SやOをどのように評価するかをここに書く。
頭痛があって頚が硬ければ
Pは plan で計画。
上記、S、O、Aを踏まえて何をするべきか。
髄膜炎なら
黄疸なら血中のビリルビン
そういった事を書く。
ということで、医療職は皆、カルテにSOAPの形式で記録することが求められている。
医師だけでなく、看護師も
当然、研修医もこの形式でカルテを書くのだが、その意味を心から分かっているのかが問題だ。
「カルテを書くにあたって最も大切な事は何かな?」
オレは研修医に訊いてみた。
いささか
「うーん、やっぱりSOAPで書くことですかね」
「その答えは間違ってはないけど、ちょっと浅いな」
「浅いですか」
医療職だけでなく、文書作成を行う職業全般に共通していることだと思う。
「事実と見解を分けることだ」
「えっと、事実と見解ですか?」
大切な事はこの1点に
「事実ってのは現実世界に存在するもの、見解というのは自分の頭の中に存在するものになる」
「はあ」
「だからSOAPのうち、事実にあたるのは?」
「O……と、Sですか?」
「その通り! じゃあ見解にあたる、というか頭の中で考えた事は?」
「AとPですね!」
つまり、書いてあることのどこからどこまでが事実なのか。
どこからどこまでが頭の中で考えたことなのか。
それを整理して記録するのが、カルテを書くという行為になる。
ここがごちゃまぜになると、近所のおばちゃん達の井戸端会議になってしまう。
「山田さんが言ってたから」
「昨日のテレビのニュースは実は間違っているらしいわよ」
「あの人はね、ホントはすごくケチなの」
もう何が事実で何が見解なのか、さっぱり分からない。
その混乱を元に話が進むからトンデモ結論になってしまう。
井戸端会議なら問題ないが、トンデモ結論で治療されたら患者はたまらないだろう。
だからキチンとしたカルテを書かなくてはならない。
今までにこういった事を研修医や看護師に150回くらいは説教した。
今後の人生、あと150回くらい繰り返す必要があるんだろうな。
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