第35話 犯罪者が寄ってくる男

オレの外来にはなぜか犯罪者が多い。


服役とか薬物とか窃盗せっとうとか。

そんな単語が普通に飛び交っている。


相手が犯罪者だからといって対応を変えたりしない。

普通に診察して普通に治療するだけだ。

もちろん、真人間まにんげんになるよう説教したりもしない。


あっ、説教はたまにするかな。


オレに対して敵意を向けたりスタッフに危害を加えたりする場合だ。

それは厳しくとがめる。


ウチに来る以上、病院の規則は守ってもらう。

暴言暴力は御法度ごはっとだ。

それが守れないのなら他所にいってもらう。


ここは無医村でも離島でもない。

他に医療機関がないのならともかく、周囲に医療機関は林立している。



犯罪者たちが病院の外で何をしていようがオレの知ったこっちゃない。

病院の中で普通にしてくれれば、それでいい。


そもそも自分の命を預けている相手に暴言を吐いてどうする?

まあ、そういう計算ができないから刑務所に行くのだろうけど。


ともあれ、オレの外来に来る犯罪者たちは、その辺を守っている。



それにしてもなぜこの人たちはオレの外来に来るのか?


普通を求めて来ているのじゃないか。

ある日、そう思った。


犯罪者たちの中にいると何が普通かよく分からない。

病院に行って、お医者さんや看護師さんと話をすれば補正ができる。

本能でそう感じているのかもしれないな。


そうするとオレは病気の治療とともに人生の治療もしているのか!


そんな大それたものではないけどな。

たとえ犯罪者でも明るく楽しく前向きな人生を送るにこしたことはない。


そう思いつつ、今日も淡々と仕事をしている。

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