第652話 忘年会をする男
オレは医師会の勤務医部会のメンバーになっている。
開業医の集まりと思われがちな医師会だけど、会員は勤務医の方が多い。
とはいえ、勤務医ってのは医師会活動には無関心な人がほとんどだ。
そういう事ではイカン!
勤務医も医師会内外に対する発言力を持とう。
そういう経緯で出来たのが勤務医部会だ。
その勤務医部会の常任委員をやってくれないか、と勤務先の偉い先生に言われて、顔を出すようになった。
会議の席を見渡すと公的病院の院長とか大学病院の教授とか、昇りつめた人たちばかりだ。
オレみたいなチンピラがここに居ていいのだろうか。
会議の後の懇親会の席では民間病院の先生方もチラホラ混じる。
「働き方改革でね。忘年会まで勤務時間内にやる事になったんですよ」
「アルコールもありなんですか?」
「ええ、午後4時から5時の間、と時間を区切ってはいますけどね」
いやいや、勤務時間中に忘年会とかアルコールとか。
それはダメでしょう。
オレは思わずツッコミを入れてしまう。
「給料払ってんだから、勤務時間中は働いてもらわないといけないんじゃないですか?」
そう言ったら喜ばれた。
「確かに経営者としては、その方がいいんですけどね。忘年会もやらないわけにいかないんですよ」
この人、経営者だったのか。
そういや名刺には理事長と書いてあったような気がする。
「先生のところはどうですか? 病院の建て替えもしたばかりだし、新しい建物の中で忘年会をやったら盛り上がるでしょう」
その先生、テーブルの反対側に座っていた出席者に呼びかけた。
さっきの会議でピントのずれた発言をしていた高齢ドクターだ。
「ウチはホテルで忘年会をする事になってね。350人いるから」
おいおい、この人も経営者かい。
「350人だったら500万円くらいですか」
「そのくらいかな。金がかかるわ!」
「だったら勤務時間内に職場でやった方が安上がりですね」
350人とか500万円とか、もう次元が違う。
さらに、その隣に座っていた出席者に声がかかった。
「先生のところはどうなの、新築でしょ?」
「市内に建てた方は看護部長と話をして、もう忘年会はやめておこうってなってね」
「そうなんですか」
「市外に建てた方だけで忘年会をやることになって」
2つも病院を建てたんですか!
「ウチも300人はいるからさ。忘年会も簡単じゃないのよ」
いやいやいや。
300人に対して給料を払うって、オレには想像できん。
気がつけば、いつの間にか話題がコロナにうつっていた。
今となっては懐かしいとも言えるホテル療養の話だ。
「いやあ、あの時は医師会の
「先生は偉いですねえ。僕なんか自分の病院のコロナ患者を診ていたら出務なんかできなかったです」
「しばらくしたら大学病院とかから若い先生が応援に来てくれて助かったんだけどな」
500万円と48時間連続勤務が同じ人間の口から出て来るとは、一体どうなってるんだ!
結局のところ、勤務医部会ってのは病院経営者たちの集まりなのか。
もうね、ゾウやらライオンやらのいる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます