第249話 目の前から消えてしまう男
昨日は銃の話をしたので、今日も銃の話をしたい。
自衛隊には専属の防衛医官がいる。
防衛医科大学校卒業後、医師国家試験に合格して医師になった者たちだ。
彼らは卒後9年間、自衛隊で働かなくてはならない。
9年経った後は自衛隊で働き続ける人もいれば、離れる人もいる。
時には防衛医官が市中病院で研修することもある。
以前、オレは海上自衛隊所属の防衛医官とともに働いていた。
仮に
彼は普段、イージス艦に乗っている。
が、健康な男性が殆どを占める自衛隊の中にいては医師としての腕を磨くことはできない。
なので、修行のために都会の救命センターにやって来た。
我々にとっては非日常の話ばかりだからだ。
そんな中、彼がぽそっと話したのは自衛隊の銃のことだ。
「自衛隊の銃は殺傷能力が強すぎるんですよ」
「やっぱり殺傷能力が強いと人道的な問題があるのでしょうか」
「いやそうじゃなくてですね」
彼の言い分はこうだった。
銃で撃った相手が死んだら、その死体を踏み越えて敵が殺到してくる。
が、相手が大怪我の場合、敵は負傷兵を回収するのだそうだ。
「何しろ人間ってのは重いんで、1人を運ぶのに4人がかりなんです」
つまり、殺傷能力の低い銃で撃って相手に命中させた場合、負傷兵1人とそれを回収する4人の合計5人の敵が、とりあえず目の前から消えてくれるわけだ。
前線で戦っている者にとっては、そちらの方がよほど嬉しい。
オレたち素人には想像もつかない現実が戦場にはあるみたいだ。
もっとも
ずっと海の上にいると曜日の感覚がなくなってしまうらしい。
だから海上自衛隊では金曜日はカレーと決められている。
それで曜日の感覚を保っているのだとか。
ある日のこと。
西之防先生の乗っているイージス艦の見学に誘われたことがある。
何と救命センターからゾロゾロと10数人が参加した。
こんな機会も滅多にない、と皆が思ったのだろう。
イージス艦の士官室に案内されたオレたちにはコーヒーが振る舞われた。
部屋の壁には今まさに乗っているイージス艦の写真が飾られている。
隣には帝国海軍に所属していた同名の巡洋艦の写真が並ぶ。
この2つの写真が、「国を守る」という使命の重さを語っていた。
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