第248話 歓迎されて笑えなかった男

昨日に続いてニュースからネタを取り上げる。


2022年10月28日、いわゆる王将社長殺人事件の犯人が逮捕された。

餃子の王将の社長が射殺されたのが2013年12月19日。

実に9年近くかかったことになる。

犯人逮捕を諦めなかった警察の執念に敬意を表したい。


さて、この射殺事件。

使われたのは25口径の拳銃で、サイズ的にはかなり珍しいものだ。

普通は22口径か38口径、大きいのは45口径になる。


オレは銃創は日本で見たことも治療したこともない。

が、アメリカに留学した早々に見る羽目になった。


手術用画像のセッティングのために手術室にいたときのこと。

脳外科レジデントのジャックに「ERに来てみろよ」と言われた。


なにしろ向こうのERとやらに足を踏み入れるのは初めてなので興味津々だった。

ベッドに横たわっていたのは金髪の若い女性。

左の前額部に銃創がある。

何の意味があるのか、耳鼻科医がファイバーで口の中を覗いていた。

見ていたのは気管なのか咽頭なのかそれはよく分からない。


シャウカステンにかかっているレントゲンを見ると頸のあたりに小さな銃弾らしき物がうつっていた。


「22口径かな?」


オレはレントゲンを見ながらジャックに尋ねた。


「いや、もっとハイパワーだろうな」


ジャックはそう答える。


何でも元カレに撃たれたのだそうだ。


「助かるのか、こういう外傷は?」

「たぶんね。障害は残ると思うけど」


ジャックにとっては珍しくもない症例のようだった。

続けて告げられた一言が今でも忘れられない。


「ウェルカム・トゥー・アメリカ!」


ギャグのつもりだったのだろうけど、オレは笑えなかった。

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