第247話 身代金を支払わない男
大阪急性期・総合医療センターの電子カルテが2022年10月31日にサイバー攻撃を受けた。
ランサムウェアというもので使えなくされ、ビットコインで身代金を支払うよう要求されているそうだ。
そもそも現代医療は電子カルテで支えられている。
だから、病院は機能停止してしまい、緊急手術以外はできなくなってしまった。
困ったもんだ。
以前にも似たようなニュースがあった。
徳島県つるぎ町の町立半田病院がサイバー攻撃を受けて機能停止した。
2021年10月31日の事なので、ちょうど1年前の同じ日だ。
この時は電子カルテが再稼働したのが2022年1月4日だとのことで復旧に2ヶ月かかったことになる。
町は「断じて身代金を支払わない」と言っていた。
ところが、ロシアのハッカー集団は身代金を受け取ったと主張しているそうだ。
実は町から復旧の依頼を受けた業者がハッカーに身代金を支払って解除キーを入手したという噂がある。
さて、業界の中にいる人間として、背景知識をいくつか述べておこう。
電子カルテは過去10年から20年の間くらいに各病院で徐々に導入されたものだ。
その前は紙カルテを用いていた。
何でも紙にボールペンで記録し、紙でオーダーする。
患者の状態も検査オーダーもその結果も、何でもかんでも紙が病院内を行き来していた。
面倒だし、効率が悪かったが、それで普通に業務をこなしていた。
で、今でもウチの病院では2年に1回くらい電子カルテシステムがダウンする。
そうすると復旧までの数時間は紙カルテ運用になる。
実はそのための紙も病院には準備されている。
昭和・平成の昔に戻るだけなので、100点満点ではないものの90点の診療は可能だ。
90点でいいのかと言われれば、90点で問題ない。
人間の体なんて適当にできているからだ。
だから大阪急性期・総合医療センターも身代金なんか支払わずに当分紙運用にしたらどうだろうか。
また、大阪急性期・総合医療センターにかかっている患者のかなりが、町のクリニックで対応可能な人たちだ。
長く診療していると、よく分からない理由で通院する患者がどんどん増えていく。
ちょっと腰が痛いとか、眠れないとか。
この機会に他の医療機関にうつってもらい、癌とか難病患者だけに集中する方がいい。
ついでにポリファーマシーの解消にもなる。
日本語では多剤併用といい、1人の患者に10数種類の薬が処方されてしまうというもの。
患者の訴えに対応しながら薬を出していたら、いつの間にか薬が増えてしまう。
その大半が鎮痛剤、湿布、睡眠薬、ということはよくある。
これもゼロベースで薬を処方しなおしてもいいんじゃないかと思う。
当面、血圧や血糖コントロールも厳密じゃなくて大雑把になってしまうけど。
実は、3年ほど前に医商工連携の会で患者カードを提案したことがある。
クレジットカードサイズのものに、自らの病歴と内服薬を印刷したものを持っておく、というものだ。
今回のようなサイバー攻撃を想定したものではなかったが。
高齢患者の多くは自分の何の病気にかかっていて何の薬をのんでいるか分かっていない。
にもかかわらず4つも5つも医療機関にかかっている。
それで、一目で分かる患者カードをオレは提案した。
各医療機関の担当医が分かりやすいように、という願いを込めた。
ビジネスチャンスを求めて出席した中小企業の人たちは誰一人興味を持ってくれなかったけど。
大災害やサイバー攻撃にはアナログの強さが発揮される。
あの時、オレの言うことを聞いていれば、今回の被害は最小限ですんだはず。
というオレ自身、自分の患者カードを作っているわけじゃないけど。
偉そうな事を言って御免ね。
あと、記者会見に
嶋津先生は大阪大学医学部救急医学講座の先代教授だ。
この講座、業界では「特救」と呼ばれることがある。
以前は特殊救急部と名乗り、日本の救急の草分けを自任している。
昭和40年代、
「トッキュウ」というだけで、それは阪大の救急医学講座のことを意味する。
そういう経緯でできただけに創成期の特救は神話と伝説に
特救の患者は心停止しても死なせてもらえない。
処置するときは拳骨麻酔だ。
手術室の点滴を勝手に飲んでしまう。
アホな質問をした学生がラリアットをくらった。
キラーカーンとか
ちなみに
そんなガラの悪い救急医たちの中、嶋津先生だけは常に白衣とネクタイを着用している。
若い時から内科医のようにキチンとしていたので、逆に目立っていた。
名前からしてもノーブルな先祖をお持ちなのかもしれない。
話は戻って今回のサイバー攻撃。
どんな形であれ、身代金を支払ってはならない。
逆にポリファーマシーの解消と患者数減少でコアな医療に集中するチャンスにして欲しいと願う。
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