第305話 左右から泣かれて困る女
コロナに始まってコロナに終わろうとしている2022年。
これまでの中で第何波に1番苦労させられたか。
そんな話が総合診療科の雑談で出た。
急性期病院の勤務医としてオレは第4波をあげた。
地方自治体の予想を遥かに超える速さで重症患者が増えていった。
病院が準備した重症ベッドはたちまち不足し、コロナにかかった知り合いの開業医は隣県に搬送された。
幸いその先生は生き残ったがゴッソリ髪の毛が抜けて今はカツラを被っているそうだ。
カンファレンスに参加した近隣クリニックの院長は第7波が大変だったという。
彼女によれば、いくら頑張っても発熱外来で診ることのできる患者数は限られている。
しかし「何処も対応してくれないんです」と電話で患者に泣かれたら来てくれというしかない。
その一方で、看護スタッフには「どうして午後10時になっても診療が終わらないんですか」と泣かれる。
「もう私はどうしたら良かったのでしょうか?」
左右から泣かれて、自分の方が泣きたいくらいだったようだ。
そればかりか、彼女はコロナ保険金詐欺にも巻き込まれた。
なんで遠くからこんなに多くの患者が来るのだろうか、それもいかついオッサンばかり。
そう思っていたところにコロナ保険金詐欺の報道。
やっぱりそうだったのか、と思ったのだそうだ。
「診断書は書けない。薬は出せない」と言った途端、それまで低姿勢だった患者に罵詈雑言を浴びせられるという経験を何度もしたからだ。
それで警察やら医師会やらに何度も相談に行くことになったのだとか。
「ところでコロナを2類相当から5類に変更すべし、という議論がありますが、5類になると何か良い事があるのでしょうか?」
オレが基本的な質問をすると即答された。
「5類だと発熱外来でなくても診療できるのです」
「ということは、全国の医療機関で対応できるということなのでしょうか?」
「そうですね。その他にも色々な縛りがなくなって、現場の裁量が大きくなります」
「でも、デメリットもあるわけですよね」
「ええ、5類になると治療の費用を患者さんが負担することになるので、そこが問題なんですよ」
実際、コロナ治療薬は1人あたり数万円する。
もし公的負担でなかったら、治療に二の足を踏む人も大勢いるだろう。
「だから私たちは新型コロナにあわせて6類をつくってくれ、と言っているんですけどね」
確かにこれだけ大きなインパクトを世間に与えている感染症だから、独立したカテゴリーを作ってもいいのかもしれない。
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