第541話 安堵した男

人間、年を取るほど色々な役職が回ってくる。

医師会の方でもいつの間にかナントカ委員会とかカントカ部会とか。

そんな役割が与えられるようになった。


とはいえ、所詮しょせんは勤務医に過ぎない。

言われたことを言われたとおりにするだけの存在だ。

だから診療報酬が気に食わないとか、何かの法案に反対するとか、そんなだいそれた考えなんぞ持っていない。

勤務医に期待される役割は勤務先医療機関に沢山いる医師を勧誘して医師会に入れることくらいだろう。


が、ここからが問題だ。


長いこと医師会の仕事をしているが、オレ、本当に会費を払っているのだろうか?


というのも、会費を払った覚えもなければ、領収書をもらった記憶もないからだ。

妻の方は自宅近くの医師会に入会し、律儀に会費を払っていて立派な領収書ももらっている。

が、オレ自身はその立派な領収書を見たことがない。


ひょっとしてモグリの医師会員なのだろうか、オレは?


いくらナントカ委員をしているとか、カントカ常任委員だとかに任命されても、会費を払っていなかったらインチキもいいところだ。

これがバレたらクビになっちまうのか?

クビならまだいいけど、過去の会費をまとめて支払ってください、などと言われたらどうしよう。


会員種別によるが、年会費は高いと30万円にもなる。

30万円ってのは開業医だからオレにはあまり関係ないんだけど。

それにしても2~3年分ならともかく、10年以上となると、ちょっとやそっとの金額ではない。


ところがある日の事。


たまたま診療局長と話をしていたところ、思わぬ事実が判明した。

何とウチは医長以上は医師会への入会を義務付けており、その会費は病院が負担しているとのこと。


それで領収書がなかったのか。

よかったあ!


下手したら何百万円も支払わなくてはならないところだった。

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