第27話 仏頂面を通す男

 同僚の整形外科医が開業することになった。


 普通、開業前の医師は愛想がよくなる。

 言うまでもなく集患しゅうかんに直結するからだ。


 しかし、その整形外科医は凄く熱心に仕事をしているのに何故か仏頂面ぶっちょうづらのままだ。

 外来ナースによれば、患者受けもあまり良くないらしい。


「あの先生、この前も患者さんからクレームがあったんですよ」

「そんなことで開業医をやっていけるんかねえ、いい先生なのに」


 余計なお世話だが、そう思わずにはいられなかった。


 クリニックの入る7階建てビルは真新しいもので家賃も高そうだ。

 何軒もの医院が入るメディカルモールらしい。


 本当に大丈夫かなあ?



 しかし、それは杞憂きゆうだった。


「いやあ、新しいメディカルモールの写真を撮ってきましたよ」


 内分泌内科医がオレに写真を見せてくれた。

 見れば見るほど立派なビルだ。


「家賃も高そうだな。クリニックが流行らないと大変ですね」

「あれっ、先生は知らなかったんですか」


 オレは虚を突かれた。


 なんと、その整形外科医自身が7階建てビルのオーナーだった!

 自分のクリニックが流行はやるかどうかはどっちでもいい。

 テナント収入で儲けることになっているからだ。


 もうオレごときが気安く話しかけることはできない。

 なんだかあの仏頂面が有難く思えてきた。

 とりあえず拝んでおこう。


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