第266話 絶望の中で手術する男
その昔、交通事故で搬入された
開頭して
が、家についたとたん病院から呼び出される。
急いで病院に戻って反対側の開頭手術を行った。
術直後のCTでどこにも血腫が残っていないことを確認して家路についた
再び連絡が入る。
今度は別の部分に巨大な血腫ができていると。
もう無理だ、オレはあきらめた。
この患者は救急搬入されたときにはしゃべっていたが、最終的には死んでしまった。
このような病態は
受傷時に脳の神経ネットワークが温存されていた一方で、血管網が
だからしゃべれるのに血腫ができてしまう。
さて、先日の事。
朝、助手をするべく手術室にいったら誰も来ていなかった。
「あれっ」と思いつつ、廊下に出ると隣の部屋からレジデントが出て来た。
緊急手術をしているところだと言う。
隣の手術室を
まず目に入ったのは血だらけの床。
「2回目の手術なんですよ」と誰かがオレに言った。
深夜の交通事故で搬入されたのは若い男だそうだ。
左側の
が、術後に瞳孔不同があり、CTを撮影してみると右側に
オレが
「この分だと予定手術の開始は2時間ほど先かな」と思い、自室に戻る。
通算で3回目の手術になる。
左側の脳実質内に
もう瞳孔は両方とも開きっぱなしだ。
それでも血腫除去を行っている。
途中からオレも手術に加わった。
どれだけ輸血したか分からない上に、血が止まる様子もない。
レジデントが術者に尋ねる。
「もうダメでしょう、この人。手術を続ける意味あるんすか?」
確かに助かる見込みは極めて低い。
こいつの言うことは
皆、心の中では同じことを思っている。
「100人のうち1人くらい助かるだろ。やらなければ間違いなくゼロだ」
術者がそう答える。
「でも社会復帰なんか夢のまた夢ですよね」
レジデントが再び問う。
どこまでも不謹慎な奴だ。
「でも100人助けたら1人くらい社会復帰するだろう。やらなければゼロだぞ」
昔のオレは2回の手術でギブアップしたが、今の術者は3回目に挑戦している。
立派な事だと思う。
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