第267話 予想外の方向に外す男
「日本NP学会で優秀賞をもらったんですよ」
連絡会の席上、そう言ったのは
「素晴らしいじゃないか!」
あちこちからパチパチと拍手が鳴った。
学会発表の内容というのは
診療看護師の病状評価能力は医師と同等である、という
「今度は英語論文にしようと思っているんです」
「なかなかいい心掛けだな」
外科や循環器内科の指導医たちも励ましてくれる。
茨城くんは、これまでに日本語で3~4編の論文を書いている。
それだけでも十分に賞賛に値する。
しかし、自分の研究を世界に問おうと思ったら英語にするべきだ。
日本語の論文は国内でだけしか通用しない。
「ところで、茨城くんが論文を書いたら英文校正の費用は病院で出してもらえますかね?」
「もちろんいいよ」
オレが尋ねたらチーム医療推進室長がそう答えた。
「頑張って半年以内に完成させようと思っています」
半年以内とはなかなかいいペースだ。
「日本語の論文を書いたらそのまま英語論文にしてくれるサービスがあるんですよ。それを利用しようと思っていて」
そう茨城くんが言うと同時に四方八方から同時に
「はあ?」
「おい、
外科や循環器内科の指導医たちからだ。
「何を馬鹿な事を。自分で日本語で書いたものを自分で英語に直すんだ。その後に何度も書き直して、これ以上直せないというところまでやってから英文校正に出さないと!」
茨城くんにも分かるようにオレは説明した。
「ウチのレジデントがそんな事を言ったりしたら、その場でクビだ」
「殺されても文句は言えないぞ!」
指導医たちはまだ怒りが
確かにオレも何十人ものレジデントとともに仕事をしてきたが、日本語論文を丸ごと英語論文にしてもらうなんて言った奴は1人もいなかった。
費用だって数十万円はかかるだろう。
下手したら自分の書いた論文を自分で読めません、なんて事になってしまう。
それにしても茨城くん、そっちの方向に外すかね?
なんか妙に納得させられたような気もするけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます