第291話 米袋を足で蹴る男

アメリカ在住時代の事。

日本人がつるんでいる外国人ランキング1位は韓国人だ、と前に述べた。

ランキング2位は台湾人だと思う。


だから、道の向こうから東洋人3人組が歩いてきたとしよう。

だいたいが日日韓とか日韓台みたいな組み合わせだ。

中国人となると、少し遠い感じがする。


考えてみれば日本も韓国も台湾もかつては1つの国だった。

だからメンタリティーに共通する部分があっても不思議ではない。



オレが親しくしていたのは台湾人のピンシーという男で整形外科医だ。

ピンシーを漢字でどう書くのかは知らない。


卓球が好きで、よく遊びに来ていた。

実はオレたち夫婦の住んでいた学生寮の地下に卓球台があったのだ。


お望み通り卓球でピンシーをボコボコにしてやる。

その後で一緒に近くのチャイナ・タウンに出かけたりしたものだ。


チャイナ・タウンで中国人の知人と出くわすとピンシーは雑談をする。

が、なぜか英語だ。

ピンシーがしゃべるのは北京語、台湾語、英語。

知り合いの中国人がしゃべるのは広東語と英語だったりする。

だから共通言語が英語しかない。


チャイナ・タウンでは色々な看板が漢字で書かれている。

だから「銀行」とあれば両替屋、「〇〇博士」とあればもぐりの医者だとオレでも分かる。

が、ピンシーはオレが漢字を読めないと思っていたようだ。

「あれはバンクだ」と「銀行」をさしながら教えてくれるので、オレも「なるほど」と話を合わせていた。


文字や文化に共通するところが多いといっても、違っているところもある。

チャイナ・タウンの食材店に行った時のこと。


「お前ら日本人が食べるのはこれだろう」


床に沢山置かれている米袋の中から「錦」と書かれているものを指さして言われた。

アメリカには色々な種類の米があるが、日本人の口に合うのはごく僅か。

その1つが「錦」だった。


「ワシらが食べるのはこっちや」


ピンシーはそう言いながら別の米袋をポンと足で蹴った。


「おい、何をするんだ。足が腐るぞ!」


オレは思わず声を上げたが、ピンシーはキョトンとしている。

食べ物を足で蹴ったりなんかしたらバチがあたる!

でも、そんな事を思っているのは世界広しといえども日本人だけみたいだ。



実は足で蹴って本当にバチが当たった人をオレは知っている。

医学部のクラスメートの両親だ。


両親とも銀行に勤めていた。

終業時刻が近づくと大金庫に現金を収納しなくてはならない。

なんと札束を足で蹴って入れていたそうだ。


「だからバチが当たってウチは貧乏だったんだ」


クラスメートはそう嘆いていたが、それだけでは済まない。

後にその銀行は潰れてしまったのだ。


札束は足で蹴るもんじゃない。

そして米袋もだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る