第394話 お金も時間もかけない男

救急外来ERが改修される。

もともと狭いスペースに4床しかなかった。

だから、複数の搬入があったらすぐに一杯になっていたのだ。


ところが隣接する場所に広いスペースが空いた。

それで出て来たのは診療看護師NPたちの要望だ。


広いスペースに4床おいて、そこで患者を受ける。

一通りの処置が終わると検査結果待ちだ。

その間を狭いスペースの4床で待機してもらう。

そうすれば、新たな患者を受けることができる。

病院経営にも貢献できる、というものだ。


結局、現在のボトルネックはベッドの少なさにある。

これさえ解消できれば名実ともに断らない救急が可能だ。


ただし、使うお金は最小限にしなくてはならない。

大改修なんてのは、もってのほかだ。

で、電子カルテの端末と酸素配管など最低限の費用で済ますことになった。


とはいえ、広いスペースにも色々な資機材や器械が置いてあった。

冷蔵庫や血液ガス測定装置、隣接する洗浄室からの動線。

それぞれ意味があって存在していたものなので、簡単に変更できない。

関係する部署や診療科との交渉が必要だ。


が、「ER狭い問題」は共通の頭痛のタネでもある。

だから驚くほどスムーズに交渉が進み、晴れてゴーサインが出た。



ある日の事。

病院の契約係から院内PHSが鳴った。


「ERの工事が始まったので1度、確認に来てもらえませんか」

「もう取り掛かっているわけ? 早いなあ」

「ええ、ある程度できたら連絡しますので」

「分かった、いつでも行くから」


それから2時間ほどってからだろうか。

再び契約係から連絡があった。


早速、ERに足を運ぶ。

それにしてもお金をかけないということは時間もかけないということのようだ。

わずか半日ほどの工事でんでしまうとは。


ERに行ってみると病院事務が3人ほど。

作業服姿の人が4~5人で作業している。

それとは別にスーツ姿の男性が2人いた。


それだけの人間がいても狭く感じないほど部屋は広かった。


白衣のオレが入っていくとスーツの男性たちが説明してくれた。


「このテーブルに端末を3台置きました」

「酸素配管は1つ足して4つ、あそこからあそこまでです」

「元からあった端末はそのままにしています」


説明はそれだけだった。

工事も短時間なら説明も短時間。

いいねえ、こういうの!


「先生、どうですか?」


そう尋ねられてオレは答えた。


「いやあ、勤労意欲が湧いてきましたよ!」


思いがけずスーツ2人組が爆笑した。


「それは良かったです」


見れば病院事務職員たちも作業服兄ちゃんたちも全員が笑っている。

ここまでウケるとは!

ギャグをかました甲斐があったというものだ。


「どうもありがとうございました。明日からバリバリ働きます!」


そう言って、オレは部屋を後にした。


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