第340話 ヒアリングに臨む男 4

(前回からの続き)


来た!


難病奇病、そして希少疾患への対応。

内科医ならではの質問だ。


そっちに話が行くとは思っていなかった。

しかし、オレの準備に抜かりはない。


「おお、それこそ総合診療科そうしん醍醐味だいごみですね。この1年の間にも色々な疾患を経験させていただきました」


オレは手元のメモを読み上げる。


家族性地中海熱、成人の周期性嘔吐症、アトピー性脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎ADEM、IgG4関連疾患、そして視神経脊髄炎など。


最後のものは研修医が抗アクアポリン4抗体を測定して診断に至ったものだ。


「家族性地中海熱が日本で見つかるんですか?」


副院長に尋ねられたオレは答えた。


「普通は地中海地方の疾患です。なので、『これは珍しい!』と膠原病内科が喜んで持って行ってしまいました」

「なるほど、興味深いですねえ」


内科医というのはすべからく疾患コレクターだ。

だから自らのコレクションに珍病・奇病が加わるのをことのほか喜ぶ。

ただし、自分の専門分野の範囲内だけど。


オレは持論を続ける。


「確かに総合診療医になるためのベースは内科か救急がいいと思います。元々の守備範囲が広いですからね。でも、どんな医師にとっても未知の疾患はあるはずです。診断のつかない症状に遭遇した時にどう対処するか、どう逃げずに戦うか、その心構えこそが総診マインドではないでしょうか。研修医たちにそれを学び取ってもらいたいと思い、私自身も精進しょうじんの日々を送っております」


ダメだ、持ち主の意思に反して立派なセリフが次々に口から飛び出してくる。


「自分がポンコツ医者だからこそ、研修医たちには立派になってもらいたい。そのための踏み台になる覚悟を私は持ち続ける所存です」

「な、なるほど」


ちょっと引き気味ながらも皆が賛同してくれた。


というわけで総診のヒアリングはよく分からない余韻よいんを残して終わった。

まあ、実行可能か否かは別として、ウソは言っていないつもりだ。


それにしても我知われしらず立派な発言をしてしまうオレのくせ、何とかしなくては!


(ヒアリングに臨むシリーズ、完結)

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