第980話 爽やか対応の男 2

(前回からの続き)


 サボらずに勉強を続けていたためだろう。

 その後に何度か受けた駿台すんだい模試の順位はじわじわ上がっていった。

 が、ついぞ一桁ひとけたの順位には届かなかった。

 せいぜい30番台がいいところだ。


 やはり一桁というのは神々かみがみの指定席なんだろう。

 聞くところによると現役生どころか高校2年生もチラホラ混じっているのだとか。



 一方、オレの通っていた予備校でも独自に模擬試験を行っていた。

 模擬試験とはいえ授業で習った事が形を変えて出題されるに過ぎない。

 高校でいうところの定期試験みたいなもんだ。

 他校からの受験も受け付けていたが、どうみても自校が有利になってしまう。


 が、ある日のこと。

 外部からの受験生が1位と2位を占めた。

 オレたちのメンツは丸つぶれだ。

 予備校教師たちもさぞかしガッカリしたことだろう。



 そんな予備校生にも予備校生の青春がある。

 多くはないものの女子生徒もいるわけで、彼女らと楽しい日々を送っている奴もいた。

 残念ながらオレにとっては違う世界の話だ。


 別に受験勉強が忙しかったからではない。

 たとえ忙しくなかったとしても、オレが見せつけられる側に回っていたのは間違いない。

 そこは潔く認めよう。


 しかし、こうしたカップルはてして女の方が偏差値の高い大学に行く傾向にある。

 男の方も何処かの医学部には引っ掛かるが、かなり格下になることが多かった。

 格下かつ遠距離ゆえ、最終的にはほとんどが別れてしまったみたいだ。


 さて、オレも親しくしていた友人が何人かいた。

 全員が男だけど。


 受験の季節になり、どの大学を受けるかが次第に皆の話題になってきた。

 若者の事だから同じ大学を受けるからといってライバル視したりはしなかった。

 単に「一緒に頑張ろう」というだけの事。


 これが選挙や教授選なら勝者総取りだ。


 でも、医学部の入学定員なんか100人ほどもあるんだから、クラスメートの1人や2人の足を引っ張ったところで大勢たいぜいに影響はない。


 それぞれ心に秘めた第1志望のある中、練習のために慶應大学や自治医大、防衛医大を受ける連中が大勢いた。

 言うまでもなく慶應大学というのは医学界では名門中の名門。


 ただ、学力だけでなく、親の財力も必要とされる。

 私学の中では最も学費が安いものの、それでも途方もない授業料だ。

 たとえ受かったとしても普通のサラリーマン家庭の子供が行けるはずもない。


 自治医大と防衛医大はそれぞれ学費が不要だった。

 ただし卒業してから数年間の御礼奉公おれいぼうこうが義務づけられている。

 それでも学費がタダというのは魅力的だ。


 というわけでオレは慶応大学と自治医大に願書を出した。

 せっかく上京するのだからということで慶應大学の工学部も受けることにする。



 当時、オレが東京で泊まった宿は受験生向きの安い所で、なんと10人部屋だった。

 そこは世の中の縮図そのもの。

 オレ以外に早慶を受ける者も医学部を受ける者もいなかった。

 でも受験目的で上京したもの同士、すぐに仲良くなって色々と語り明かした。


 翌日、いざ本番!

 まずは慶應大学の工学部からだ。


(次回に続く)

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