第21話 パンツを履かない男

 ロシアのウクライナ侵攻ですっかり忘れられた感がある。

 が、コロナとの戦いは静かに続いている。


 外来患者によく尋ねられる。

 現在のコロナはどうなっているのか、と。


 実際はフェーズごとに特徴がある。


「第4波の時はコロナの病原性が強力で苦労しました」

「そういえばそうだったですね」

「あっという間に重症患者数が想定の3倍になりましたからね」


 知事の要請で決められた数の重症病床を準備していた。

 すぐに足りなくなって、他県への搬送が相次いだ。

 自宅療養中に死亡した患者も少なくはない。


「その教訓から第5波ではかなり重症ベッドを増やしたんです」

「あまり大騒ぎにはならなかったような気が……」


今度は多すぎるくらいの重症ベッドが準備された。

幸い重症患者の発生数が想定内におさまり、うまく乗り切れた。


「ところが第6波では予想外の方向から攻撃されてしまいましてね」

「予想外?」

「感染性が尋常ではなかったのです」


 重症病床に余裕があるのに準備していた軽症・中等症病床が足りなくなった。


 そればかりか医療従事者の間にも感染が拡がった。

 ベッドだけあってもスタッフがいなければ使えない。


 さらに入院患者にも感染が拡がった。

 元の疾患の治療継続が必要なため、転院させることもできない。

 かくしてシステムの弱点が露呈ろていし、再び医療体制が破綻はたんしかかった。


「オミクロンは決して普通の風邪ではありません」

「そうなんですか」

「感染性が風邪とは比較にはならないですね」


 もはや空気感染だといっても過言ではない。

 重症化しないとされているが、実はワクチンや治療薬の貢献が大きい。

 少なくともオレはそう思っている。


 悪いことばかりでもない。

 コロナ共通のふるまいが次第に明らかになってきた。

 治療する側も先手を打つことができている。



 それにしてもこの2年間、ほとんど外食はしていない。

 飲み会の出席も皆無だ。


 それで何の不自由も感じなかったのは新たな発見だ。



 諸外国の人はマスクが苦痛だという。

 その気持ちはオレには理解できない。


 そもそもオレは外科医だから1日中マスクをして手術室にいる。

 何もつけていないと、まるでノーパンで過ごしているみたいで落ち着かないくらいだ。


 外国の人たちもパンツはちゃんといているんだろうな。

 ちょっと心配になってきた。

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