第447話 総合診療を語る男

 医師会の会合があった。

 そこで自院の総合診療科そうしんについての紹介を1分間でするように言われた。

 自分の順番が回ってくる間、何をしゃべればいいのだろうか、ということに思いを巡らす。


 他の診療科なら自分の得意な疾患を紹介してくれ、ということになる。

 脳卒中内科なら片麻痺とか、泌尿器科ならPSA高値とか。


 でも、総診は特に得意疾患がない。

 来た患者を診るだけだ。

 ドクターGのように難病奇病をピタリと診断する、という事もある。

 ごく稀なことだけど。

 見方によっては総合内科の劣化コピーみたいな立ち位置だ。


 オレの考えとしては「皆が得意な事をやるので、私は誰も見向きもしないスキマ産業を担当しています」ってのが1番近い。


 だから、こう挨拶をした。


「診断がつかなくて困っている患者さんがおられたら御紹介下さい。とはいえ、私の方も診断がつかない事が多いとは思いますが」


 思いがけず会場の笑いを誘った。


 ただ、診断がつかなくて困っているといっても、あくまでも身体疾患に限る。

 ありもしない病気を自分でつくってしまうような人は苦手だ。

 そのせいか、妄想にりつかれてオレの言うことに耳を貸さない患者相手に大喧嘩してしまった事が何度かある。


 それはさておき。

 身体疾患であれば患者と一緒に問題の解決を図る。

 完全に症状がとれなくても、半分でも良くなって欲しいと思うからだ。


 なので、こう付け加えた。


「患者さんの訴えにキチンと向き合う、ということを何時いつも心掛けています」


 案外、患者に向き合っている医師は多くないような気がする。

 薄利多売の開業医は1日に50人以上も診なくてはならない。

 一方、大病院の専門医が本気を出すのは自分の興味ある疾患だけだ。


 かくして、ちょっと込み入った症状の患者は行き場所がない。

 最近になって歩きにくくなったとか、やたら疲れるとか。

 こうした訴えは複数の診療科にまたがる色々な疾患が考えられる。

 だから開業医も専門医も、適当に受け流しがちだ。


 でも、患者は名医よりも、自分の訴えに真面目に耳を傾けてくれる医師を求めている。


「私自身は、年のせいだとか、不定愁訴だとか、心因性だとか、そういう言葉を出来るだけ使わないように決めています」


 そういう言葉は、オレにとっては診断の放棄であり敗北だ。

 だから禁句にしている。


「あと、週1回の総診カンファレンスでは近隣の開業医の先生や老健の先生も出席しておられます。若い研修医を鍛えてやろう、と思う先生方がおられたら、是非とも御参加ください」


 そう締めくくって挨拶を終えたところ、早速、声をかけられた。


「最近、近くの病院に異動してきました。私も参加していいですか?」

「もちろんです。御指導いただけると有難いです」


 多くの医師が参加して、色々な方向から患者の診断や治療を考える、というのが理想的なカンファレンスだ。

 ずっと出席していても、途中から諸般の事情で出てこれなくなる医師もいた。

 だから常に新しいメンバーを探している。

 たとえ耳鼻科でも整形外科でも大歓迎だ。


 患者の訴える症状に対して診療科をまたいで鑑別疾患を考える、というのも総診の面白さの1つだと思う。

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