第298話 京都の暑さにやられた男 2

 北大のジャージマンが活躍した京都の卓球大会。

 もちろんオレも参加していた。


 が、なにしろ夏の京都は暑い。


 だから試合の合間に体育館の中の薄暗い通路に行って寝ていた。

 その通路は適度に暗く、適度に涼しい。

 他に誰もいなかったので、寝るのにちょうど良かった。



「うわっ、誰か寝てるよ!」

「ほんまや」


 女の子たちの声がした。

 いい調子で寝ていたオレの足につまずいてこけそうになっている。



「君らは小学生か?」

「うん」

「卓球の試合を見に来たのか?」

「そや」


 小学生の女の子といえども関西人。

 ストレートな答えが返ってくる。


「どこの大学を応援しているわけ?」

「そんなもん、京大に決まっとるやん」


 分かりやすい小学生2人組だった。



「あのさあ、頼みがあるんだけど」

「何?」

「自動販売機でジュースを買ってきてくれないかなあ」

「ええよ」

「君らの分も出してあげるからさ」

「ほんま?」

「当たり前だろ」


 小学生たちはそれぞれに1本、オレにも1本のジュースを買ってきた。


 喉が渇いていたオレはジュースを一気に飲んだ。


「うわっ、一口で飲んだ!」


 2人とも目を真ん丸にして驚いていた。

 オレにとってはそれでも物足りないくらいだ。



「それともう1つ頼みがあるんだけど、いいかな?」

「うん」

「京大が出ていない時は、オレの応援をしてくれないかな」

「ええよ」


 その時、オレの名前がコールされた。


「試合に呼ばれたからな、応援たのむよ」

「うん、すぐ行く!」



 あれから何十年。


 約束通りオレの応援をしてくれた彼女たち。

 今は何処で何をしているのだろうか。


 体育館の通路でジュースを一気飲みした男の事なんか忘れているかな。

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