第387話 ニートだった男

 先日、家の近所のスーパーで患者親子に出くわした。

 70歳近くの母親と40歳前後の息子だ。

5分ばかり立ち話をした。


 母親は数年前に定年になり、しばらく雇用延長で働いていた。


「給料が3分の1になってしまったんですよ、仕事量は変わらないのに」


 そうこぼしながら、働き続けた。

 が、雇用延長も終わり、今は何をして生活の糧を得ているのだろうか。


 息子の方はニートだ。

 正確にはニートだったというべきか、現在は働いているのだから。

 とはいえ、4時間ずつ週2回だ。

 仕事の内容は介護関係らしい。


 この息子、なんでニートになってしまったのか?


 中学、高校の時に学校でいじめられて不登校になったからだ。

 その後は虐められなくても社会に出れなくなった。

 だから家にこもっている。


 ニートの重症度にも色々あるように思う。


 この息子は母親の診察に付き添ってくる。

 オレとのコミュニケーションも特に問題はない、快活とはいえないけど。

 そして今日は母親と買い物に来ていた。


 だから完全に自室に閉じこもっているわけではない。



 ネットには真偽不明の重症ニートの生態が描かれている。


 自室に閉じこもっているので「子供部屋おじさん」と呼ばれる。

 腹が減ると床ドンをして、おびえた母親に食事を持ってこさせる。

 風呂に入らず小便は部屋のペットボトルにする。

「大」の方だけはトイレにする。

 注意すると逆ギレして暴れる。


 ホントにこんな人いるのか?

 きっといるんだろうな。


 でもスーパーで出くわした中年息子はここまで重症ではない。

 ニートだった時ですら病院には来ていた。

 そして最近は働いているのだから、立派なもんだ。


 外で働かなくても、家事をすれば母親は随分助かると思う。

 掃除や洗濯、できれば食事の準備とか。

 そんなニートはあまり聞いたことはないけど。


 それにしても実物のニートの観察は面白い。

 だから母親が1人で来た時もオレは息子の様子を聞くことにしている。


「いつも息子の事を気にかけてくれて、ありがとうございます」


 そう母親には感謝される。

 気にかけてはいるが、それはまた別の意味でのこと。


 別に親切な医者ってわけじゃないんだ、御免ね!



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