第61話 生活保護を抜け出した男

「俺、古物商の免許を取ったんですよ」

外来でそう言ったのは在日韓国人のソウさんだ。

最近、帰化して日本国籍になった。

だから苗字もソウではなく日本名になっている。


「お父さんが死んだら兄弟6人全員が帰化しました」


今までは父親に遠慮して韓国籍のままだったそうだ。

しかし、日本生まれの日本育ちだったら日本国籍の方が便利だろう。



ソウさんは大病を患ったために生活保護になってしまった。

しかし、その後の根性が半端なかった。

病気から回復するとともに生活保護からの脱出を図る。


もともとは水商売をしていた。

夜の店を数軒、経営していたのだ。


今回は中古自転車販売・修理の仕事を始めた。



ソウさんから商売のコツを教えてもらった。

まず優良中古品を仕入れるコツ。


放置自転車管理場に仕入れにいく。

その時に管理場を綺麗に掃除し自転車をきちんと並べ直す。


要するに管理人のオッチャンの仕事を代わりにやってあげるわけだ。

当然のことながら、オッチャンの機嫌は良くなる。


「ソウさん、いい自転車を横に取っておいたよ」


オッチャンは優良中古自転車を確保しておいてくれる。

ちょっと手を入れたら高値で売れるものだ。



次に修理のこと。

ソウさんは繁華街に店舗を構えた。


店の前を朝夕たくさんの自転車が通る。

出勤するサラリーマンやOLだ。


この人たちの自転車が壊れたら預かって修理する。

朝預かったら夕方までに直して帰宅の時には乗れるようにする。

夕方預かったら朝までに修理して出勤の時に渡す。


それだけやれば店も流行る。

あっというまに5店舗。

ちょっと前まで生活保護だったのが今や人を雇う側になってしまった。


商売のセンスと根性が違う。



もう1つ感心するのが、ソウさんの受療行動だ。


体調不良があったら受診する。

が、定期通院は好まない。

精神的に依存されない分、こちらとしても楽だ。



患者からも学ぶことは沢山あるし、凄い人は凄い。

当たり前の事だけど。




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