第553話 「響」を読む男

ひびき~小説家になる方法~」という漫画をオレは知らなかった。

2014年~2019年頃に連載されていたらしい。

作者は柳本光晴やなもとみつはるという人だ。


ある YouTube チャンネルで紹介されていたので読んでみた。


正直、むちゃくちゃ面白い!

圧倒的な文才のある女子高生が主人公だ。

名前を 鮎喰あくい ひびき という。

彼女の天才ぶりもさることながら、その奇行が面白い。

次は何をしでかしてくれるのか、と読者を引っ張る。


また「小説家として食っていきたい」と切実に願う人たちのエピソードもリアルだ。

本当にこういう人達がいるんだろうな、と思わされる。


たとえば、そこそこ売れているラノベ作家が新人賞受賞式の場で感じるところ。

第7巻から少し引用させてもらう。


 この会場には3種類の作家がいる。

 今日受賞した新人作家。

 デビュー済みの中堅作家。

 そして……(略)……人生あがりの作家。


ラノベ作家は紹介された新人賞受賞者にこう言う。


 正直、君はまだデビューできるレベルじゃない。

 しばらくは下積みが続くのを覚悟しろ。


さらに心の中で思う。


 そう。

 オレ相手にいちいち緊張するな。


睨みつけてくる新人を見下ろしながら続ける。

 

 新人はその顔でいいし、俺はこれでいい。


素晴らしい!

この感覚ですよ、これ。


カクヨム作家なら登場人物の誰かに感情移入できると思う。

オレが感情移入するとすれば ひいらぎ 咲希さくら、通称「おかっぱちゃん」かな。



さて、ちょっと真面目に考察してみる。


この漫画の底に流れるテーマは何だろう。

「あなたはなぜ小説を書くのか?」ということではなかろうか。

そうした問いかけと、登場人物たちの答えが繰り返しでてくる。


特に主人公の 鮎喰あぐい ひびき の数々のお言葉が印象深い。


芥川賞を逃して自殺しようとした小説家に、彼女は自分も小説を書いていると名乗った上でこう言った。

これは第6巻からの引用だ。


「別に誰かのために書いているわけじゃないし、自分のためでもない。ただ書きたくて仕方ないから書いているだけだけど」


さらに正論を吐く。


「10年小説家やってたなら、あなたの小説読んで面白いと思った人は少なくてもいるわけでしょ。それは私かもしれないし。売れないとか駄作とか、だから死ぬとか、人が面白いと思った小説に、作者の分際で何ケチつけてんのよ」


そうだ、そうだ!


たとえ売れていなくても読者がゼロってわけじゃない。

中には毎回、楽しみに読んでくれている人もいるわけだ。

なら、その人たちに向かって精一杯書くってのも十分に意味のある事じゃないか。


オレたちは……少なくともオレはプロ作家ではない。

だから、売れれば嬉しいけど、それが最優先ではないと思う。


たとえば、オレは今日、スーパーにイタリアンパセリを買いに行った。

秋になったとはいえ、まだまだムッとする空気の中、片道10分ほどだ。

青い空の下、緑に包まれた遊歩道を踏みしめて歩く。

その幸せな気分を表現し、そして読者に共感してもらいたい。

そういう事ができたらな、と思いながら書いてきた。


ごく少数でもいい。

オレの話が深く刺さる読者がいればそれで十分な気がする。



オレは「ひびき~小説家になる方法~」全13巻を一気に読んでしまった。 

もしこの漫画をまだ読んでいないカクヨム作家がいたら是非読んでみてほしい。


作家人生に大きな影響があるんじゃないかと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る