第498話 スウォッチ愛の男

「スウォッチか、扱ってないんだよね」

「いやいや、バンドを取り換えるだけなんですよ。この2つの時計は同じものなんだけど、こっちのバンドが切れてきたので、こっちのをうつしてもらえませんか?」

「うーん、ケースが壊れても文句なしという事なら」

「それでいいですよ。幾らですか?」

「550円で。15分したら来てください」


 オレはスウォッチの同じ時計を2つ時計修理屋に預けた。


 2つのうちの1つは秒針が飛んでしまっている。

 もう1つはバンドに切れ目が入った。

 だから両方とも使えない。


 だから、片方のバンドをもう一方にうつしたら、ちゃんとしたものが1つ出来る。

 そういう事を目論んで家の近所の時計修理屋に持ち込んだのだ。


 15分経って修理屋に戻る。


「ごめん、秒針を飛ばちまった。お代はいいです」

「いやいや、秒針は元から飛んでいたんですよ」

「ああ、良かった! でももうお金は要りません」


 ラッキー!

 オヤジの気が変わらないうちに時計を回収して帰ろう。



「お義父さんも同じスウォッチを愛用しているけど、どうなってるわけ?」


 いつも妻には不思議がられる。


 いやいや軽くて文字盤が見やすいし、値段も1万円くらいで手頃だ。

 昔はもっと安く、4,000円くらいじゃなかったかな。

 だから失くしてもあまり惜しくない。

 実際、これまでに同じものを5~6個は買ったはず。


「確かに親子二代で同じロレックスを使っていたらカッコいいけど、スウォッチではなんだかなあ」

「そうよ、もっとハッタリのきく時計にしたら?」

「でも、オレの身の丈にあっているような気がするし。当分、これでいくわ」


 妻だけでなく自分でも呆れてしまう。

 何より父親まで同じ時計を愛用しているのが……謎といえば謎だ。


 残念なことにスウォッチはだんだん販売店が減ってきた。

 今後は Amazon で買う方がいいのかもしれない。


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