第33話 ボディーソープを1本使う男
車椅子に座った男性の足首が見えていた。
左右ともドス黒い。
顔も黒いが足首も黒い。
糖尿病か何かで
「この人、道に落ちて……いや、倒れていたんですよ」
診察室に同行してきた女性ヘルパーがそう言った。
「家に連れて行ったら、靴を脱いであがる気になれなかったです」
そういう家であることは足首からも想像できる。
「殴られて耳から血を流していたんです」
「あまりお金を持っていそうに見えないけど、何でまた?」
殴ったり殴られたりするのも理由があるはず。
その大半は金がからんでいる。
「1万円くらいは持っていたみたい、この人」
「虎の子の1万円がなくなったら、辛いでしょう」
「まあ、犯人は分かってるんですけどね」
狭いコミュニティーでなけなしのお金をとったりとられたり、ということか。
「ちゃんとした診断書があったら警察も動いてくれるって」
いやいや。
警察とか被害届とか、勘弁してもらえないかな。
オレ忙しいから。
診断書作成は他の医者に頼んでね。
「
「最初に
「じゃあ、私は画像検査してその所見をクリニックの方にお伝えしましょうか」
「お願いできますか? 先生」
ということで、なんとか各自の役割分担をはっきりさせることができた。
一通りの検査が終わって診察室を出るときにヘルパーに尋ねられた。
「風呂に入れてもいいですか?」
「ああ、いいですよ」
「よかった。でも、ボディーソープ1本使ってしまいそうだね!」
はあ?
1本とか2本とか、いつもやっているみたいに言われちまった。
それに足首は壊死していたのではなくて、
本来はもっと白い人だってわけね。
お大事に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます