第261話 医師患者関係を学ぶ男

 若い女性が喘息発作で救急外来に搬入され、そのまま入院となった。

 普段は近くの開業医にかかっている。

 が、最近、とみに発作回数が増えていたのだ。


 発作治療薬リリーバーだけ処方されていて長期管理薬コントローラーが全く使われていない。


「これだったらステップ1どころかステップ0じゃないですか」

「せめて吸入ステロイドきゅうステくらいは使っておかないと」


 夜間救急で対応した研修医たちはいきどおっている。

 ちなみにかかりつけ医の専門は血液内科のようだ。

 もしかすると血液内科の先生に喘息治療は荷が重いかもしれない。


「もうこの先生の所に返すのはやめて、別のクリニックに紹介したほうがいいんじゃないですか」

「待て待て。患者さんとその先生との人間関係によるだろ、そこは」


 オレは研修医をいさめた。


 たとえばこの患者がややこしい血液難病をもっていてそちらが主体メインなら引き続き同じクリニックにかかる必要がある。

 その場合は当院で吸入ステロイドを開始した上で「診療ガイドラインのステップ1に従って吸入ステロイドを処方しておきました」と診療情報提供書に書いておけばすむことだ。

 その後は開業医が自分で勉強しながら喘息治療ステップのアップダウンを調整したらいい。

 わざわざ医師患者関係を壊す必要はない。


 でも、もし患者がかかりつけ医に不信感を持っているなら話は別だ。

 呼吸器疾患を専門とする他のクリニックに紹介することも考えよう。

 その場合は、当院OBの息川いきがわ先生がいいかもしれない。

 いつも紹介した患者からの評判が良いからだ。


 その辺のニュアンスを研修医には学んでもらいたいと思う。

 とはいえ、そういう事を意識するのは自分自身が開業してからかもしれないけど。

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