第260話 再びハゲを罵られた男

 電車の中で「ハゲだ!」と小学生に罵倒された泌尿器科のスキンヘッド先生の話は以前にした。(第202話)


 この先生、再び電車の中で「ハゲだ!」と言われてしまった。

言ったのはガラの悪そうな高校生2人組だ。


 よくハゲを指摘される先生ではある。


「自分らは高校生か?」

「ああ、そうだけど」


 相変わらずスキンヘッド先生は動じない。


「1ついてもええか?」

「えっ」


 予想外のレスポンスに高校生たちは戸惑っている。


「ハゲってのは漢字でどう書くのかな?」


 1人の目は泳ぎはじめ、もう1人はあわててスマホを取り出す。


「ハゲって、こう書くんだろ」


 スマホを見ながら1人が空中に指で書く。


「口で説明してみようかな。ナントカへんにカントカって」


 スキンヘッド先生はニコニコしながら高校生にげる。


「これ何と言うんかな」

「ノギヘンってやつだろ、これ」


 高校生は2人でスマホをのぞき込んでいる。


「でも、そいつは『禿はげ』っていう漢字の上に来てるやろ。ノギヘンってのは普通、左に来るもんとちゃうか?」

「……」


 スキンヘッド先生に指摘されて高校生たちは沈黙してしまった。


「上に来るのはカンムリって言うよな。それ、どうするわけ?」

「そんなの、どっちでもいいだろ」


 高校生たちは居直る。


「髪の毛も大切やけどな、頭の中身の方も大切やで」


 そう言ってスキンヘッド先生は立ちあがった。

 立つと網棚の上に目の高さが来る。

 雲をつくような大男とはこのことだろう。


「何だオッサン、やるのか?」


 高校生たちはちょっとあとずさりする。


「おっちゃんはこの駅で降りるからな。自分ら、ちゃんと勉強しときや」


 そう言ってスキンヘッド先生は高校生たちの間を通って悠々ゆうゆうと降車した。

 あわててオレもあとに続く。


 それにしても「禿」という漢字を口で説明するのはどうしたらいいのか。

 大昔に高校を卒業したはずのオレにとっても難問だ。


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