第349話 皆に説教される男
オレはよく
入院患者の割り付けがなってない、とか。
診療看護師にはこれをやってもらわないとダメだ、とか。
不思議な事に脳外科の方は「こうあるべきだ」などとは言われない。
が、
一般的な総合診療医のイメージはDr.コトーやドクターGじゃないかな。
離島や無医村で大活躍。
どんな難病でも診断をつけてみせる名医ってところだ。
が、都会の大病院の中にある総診はどうなのか。
四方八方から説教される存在にされてしまう。
皆がそれぞれの専門を追求した結果、誰の守備範囲でもない患者が取り残されてしまう。
「ウチの専門じゃないんで」と言いつつレジデントがブン投げてくる。
それを「こちらで対応させていただきます」と受け取るのが総診だ。
少なくともオレはそういう立場を取っている。
せめて専門医をとってから「専門」を名乗ってくれよ。
各科のレジデントたちには、そう言いたいのだけど。
それはさておき、そんな総診にも応援の医師が来ることがある。
「総合診療をやりたい」と目を輝かせてくる人もいれば、「総診で面倒見てやってくれ」という言葉とともに
応援医師にオレが求めたいのは、各科から押し付けられる症例を受け止めるマインドだ。
あちこちからの説教にも耐えるタフさも持っていて欲しい。
そういう意味では幅広い知識以上にメンタルが大切だと思う。
さて、先日の事。
当院の救命センター長がオレに面会を求めてきた。
また説教か、といささかうんざりだ。
が、実際に会って話をすると話は中央救命センター構想だった。
ホットラインが乱立している現在の縦割り救急を見直す。
窓口を1つにして外傷も脳卒中も心筋梗塞も全部対応する。
そして、患者を押し付け合わず、皆が機嫌良く働けるようにしよう。
そういう職場なら生産性も上がるし離職率も減るだろう。
そのような立派な話だった。
「そうすると朝の割り付けはどうなりますか?」
1日の最初が
「もちろん、割り付けも
「それは凄い!」
オレは両手をあげて賛成した。
「素晴らしい構想ですね。私に出来る事ならお手伝いしますよ」
それにしても、救命センター長ってこんな立派な人だったかな?
今はともかく、これから立派になってもらえば何の問題もない。
「それで今度来る若松くんには期待しているんですよ」
救命センター長の知り合いの若手医師が総診に加わることになっていた。
「意欲をもってバリバリやってもらうと嬉しいですね。もちろん私も支援を惜しみません」
そう言うと救命センター長の厳しい表情が緩んだ。
が、付け加えておかなくてはならない事もある。
「ただ……」
「ただ、何でしょうか?」
彼の顔がいささか曇った。
「先生も御存知のように総診は何かとクレームをつけられやすいので、それに耐える
「それについては、若松くんにクレームが来たら、先生と私とで代わりに受け止めてあげなくては、と思っているんですよ」
えっ、
そこでオレは言った。
「先生の
そう指摘すと救命センター長は驚いた顔になった。
「おお、そうでした! クレームを皆で負担するんじゃなくてクレームが出ないようにするのが目標です」
「是非、その線でお願いしますよ」
「分かりました。頑張ります!」
実現可能かどうかは別として、彼の言っている原理原則は正しい。
皆がニコニコ働いていれば生産性が上がって離職率が下がる。
どんな職場でも、まずは不平不満を一掃する事から始まるのだと思う。
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