第681話 虚をつかれた男 2
(前回からの続き)
「どうですか、ちょっと歩きやすくなりましたか?」
「うん、歩きやすくなった」
見た目にはあまり変わらないが、本人的には調子良く歩けるみたいだ。
「手も軽くなった」
ということは、やはり頚椎の問題が大きい。
80代とはいえ外科的治療も視野に入れておくべきではないかと思う。
結局、自宅退院を妨げているのは尿路感染症などではなく、頚椎症による歩行障害、つまり四肢不全麻痺だ。
尿路感染症の方は経口抗菌薬で十分だろう。
そう思ったオレは整形外科担当医に出来るだけ丁寧に、経口抗菌薬で十分な事と除圧手術を検討して欲しいという事をコンサルの返事に書いておいた。
誰がどうみても過不足のない診療だったはずだし、患者もオレに感謝していた。
が、そいつが大きな間違いだったのだ。
外来診察室に戻って残りの患者を片付けにかかっていると、電子カルテの画面上に右から左に向かってクジラが泳いでいく。
これは電子カルテ同士を結ぶメールアプリだ。
クリックしたオレは仰天した。
「入院患者の
おいおいおい、あの発熱は尿路感染症じゃなかったのか!
そもそも入院してからコロナの検査はしていなかったわけ?
先にコロナが無いのを確認してからコンサルしてくれよ。
そういうオレもコロナの事なんか考えていなかったわけだけど。
やっぱりオレたちの整形外科だぜ。
頭を使う仕事はとことん苦手。
今回、コロナの検査を出していただけでも上等かもしれない。
ちなみに尿検査は全く問題なかったので尿路感染症ではなさそうだ。
うっかり
オレはマスクしていたけど、患者の方はマスクなんかしていなかった。
コロナを貰ってしまったら休まなくちゃならない。
いや、接触だけでも自宅待機かも。
これはもうしばらく大人しく過ごすしかない。
家にストックしているコロナ抗原検査キットで時々調べてみるか。
そう思っていたら家には研究用抗原キットではなく、もう少しまともな臨床用抗原キットがあった。
職業的興味の湧いたオレは早速これを使ってみる。
鼻の奥に突っ込んで上咽頭壁をグリグリグリ。
そして何か分からない液体に入れてからプラスチック容器の窓の上に垂らす。
Cの部分に線が1本出たら陰性。
CとTの部分、両方に線が出て2本になったら陽性だ。
Tだけに線が出たり、全く線がでなかったら判定不能。
はたしてオレの検体は……陰性だった!
まあ、患者に接触してすぐに陽性に出るわけでもなかろう。
でも少しは安心材料になる。
とりあえず、明日の出勤は可能そうだ。
そう思って安心していたら翌日に飛んでもない事が!
(次回に続く)
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