第504話 人を驚かせる女

その瞬間まではいつもの麻酔導入だった。

全身麻酔がかかり、体位をとろうとタオルケットをめくった時に驚いた。

顔がチョビ髭を生やしたオッサンなのに、体は女性だったからだ。

少なくとも男性器はついておらず、立派なバストがあった。


オッサンといったら気の毒だな。

映画「風とともに去りぬ」のクラーク・ゲーブル風のイケメンだし。

少なくともオレよりは女にモテるに違いない。


しかし、オレの意識が現実についていけなかった。

いにしえの物語に出てくる異形いぎょうの人間か、はたまた神様の化身か。

とはいえ、気を取り直して仕事にかからなくてはならない。


性別を主治医に確認する。


「この人、女性ってことでいいのかな」

「そうですね」

「でも顔は男性じゃん」

「ええまあ、そういう趣味の人って事で」


主治医は患者との付き合いが長いからか特に驚いてはいない。


「この人、部屋はどっち?」

「男性部屋に入れられているみたいですよ」

「おいおい」

「この顔の人が女性部屋に入ってきたら皆がびっくりするんじゃないですか」


そりゃまあそうだけど。

看護スタッフの多くは女性だから女性目線になっちまうんだろうな。


「この人のパートナーは女性だったんで、この人自身は男性役なんでしょうね」

「本人さえ良けりゃ周囲がどうこう言うべき問題じゃないけど」


患者の自認する性別と神様が決めた性別がズレた場合にどうすべきか。

そりゃあ治療にあたっては神様の割り当てた性別を優先する。

何と言ってもオレたちは体の方を治しているわけだから。


あれこれ考えても仕方ない。

とにかく元気になってパートナーのもとに帰ってもらおう。

それがオレたちの使命だ。


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