第649話 「王の病室 2」を読む男 2

(前回からの続き)


「王の病室 2」の後半部分の感想を書こうと思って読み直したが……

 やっぱり、これは大変な漫画だ。

 リアルすぎて疲労困憊ひろうこんぱいしてしまった。


 が、気をとりなおして読者の皆さんに具体的な話をしよう。



ここがリアル!:その5 VIPビップ病棟の存在


 漫画の中では差額特別室病棟が正式名称だ。

 でも職員は通称のVIP病棟と呼んでいる。


 これまでのオレの修行先にはVIP病棟を持つ病院がごくわずかに存在した。

 この漫画のように廊下にカーペットが敷かれていたりシャンデリアがぶらさがっていたり、ということはない。

 なんら変わったところのない普通の病棟であるが、VIP病棟である事は何となく分る。


 まず最上階に存在する。

 そして病棟ナースの美人度が高い。

 さらに大部屋というものがなく、個室しか見当たらない。

 しかもやけに広い個室だった。


 オレが担当したのは某参院議員の後援会長、某有名企業の役員、そして元衆院議員などだ。

 それぞれにオーラが半端はんぱなかったし、何よりも初対面の研修医をきつける人間的魅力にあふれている。

 こういう人たちとは単なる世間話をしていても学ぶところが沢山あった。


 そうそう、病棟スタッフの顔と名前をすぐにおぼえてしまうのも皆さん共通の得意技だった気がする。

 社会のピラミッドを駆け上がっていくために必要なスキルなのかもしれない。



ここがリアル!:その6 ICでガチガチの現代医療が実は不健全だという獄門院ごくもんいん医師の見解


 ICというのはインフォームド・コンセント。

 つまり、医師は患者によく説明した上で同意を得るべし、という医療の基本だ。

 が、獄門院はそれを「プロフェッショナリズムの放棄……患者任せの医療ともなり得る」と表現した。


 確かに「説明を尽くした上での同意」というのは美しい響きに満ちている。

 が、そういった意味でのインフォームド・コンセントならオレたち医師よりもインチキ医療機器のセールスマンの方が何倍も得意だ。

 だから患者が現代医学よりもイカサマ民間療法に走ってしまうという茶番が繰り返されている。



ここがリアル!:その7 「医療詐欺師を全員絞め殺したいと思ってる」という赤城研修医の言葉


 オレたち医師から見た医療詐欺師というのは無数に存在する。

 インチキでやたら高価な医療機器、健康食品、民間療法、まじないなど、本当に数が多い。

 それにしても、よくも人の弱みにつけこんで金儲けなんてできるもんだ。

 だから、赤城研修医のように全員絞め殺したいという気持ちはよく分かる。


 だけどオレは絞め殺したりしない。

 そんな時間もエネルギーもないし、いくら悪人でも本当に殺してしまったら刑務所行きになっちまう。

 インチキ医療といえども有害でない限り、見て見ぬふりをしているのが現状だ。


 もちろん、アドバイスを求められれば真実を告げる。

 こんな感じだろうか。


「先生、このアスコルビだけってのがいいと聞いたんですけど、どうなんでしょうか?」

「本当の事を知りたいですか?」

「ええ、そのためにお尋ねしているんです」

「分かりました。はっきりいってクソですね、そのナントカだけは」

「ええっ?」

「今すぐゴミ箱に捨てることをお勧めします」

「でも、1箱が5万円もするのをお友達が買ってわざわざ持ってきてくれたんですよ。まったく効かないってことも……」

「御本人が勿体もったいなくて捨てられないのであれば、私が代わりに捨ててあげましょうか」

「いや、その」


 ポイッ(ゴミ箱に捨てる音)


「ああーっ!」

「ついでだから、そのお友達とやらもゴミ箱に捨ててしまった方がいいと思いますよ」

「そんなあ」

「お友達というよりも詐欺師ですね、その人は」

「あんまりじゃないですか、先生!」

「本当の事を知りたいとおっしゃるからその通りにしたわけですが、何か問題でも?」


 こんな事を言ったら、いくら真実でも恨まれてしまうだろうな。



 ここまで感想を書いてきたら、もう無茶苦茶疲れてしまったので、このあとの部分については次回で述べよう。


(次回に続く)

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